変動する世界情勢に、必要な人材を育成

 

デンマークの企業数は10人に1社。日本の3倍

2016年におけるデンマークの企業数は約55.6万社で、人口約570万人で割ると約10人に1社の割合で企業があるということです。因みに日本の企業数は約413万社で人口比では30人に1社の割合です。デンマークの企業数約55.6万社の内訳をみますと、約83千社が株式会社(A/S資本金額最低50万クローネ)、資本金最低5万クローネの株式会社約43万3千社、資本金1クローネで創業出来る企業体IVS*数約4万社となっています。IVS =Iværksætterselskab (直訳:起業会社)デンマークにはこの他に個人経営の事業主がたくさんいます。年間の取引量が5万クローネ(約100万円)を超えると個人企業の登録が義務付けられています。個人企業の登録は無料で簡単にできます。また、個人企業も閉鎖も面倒無くできます。唯一消費税の清算が義務付けられていることです。

 

900種類の職種で職種別就労制度

デンマークの雇用形態は、職種別となっているため、職場との関係で非雇用者の待遇が変わることはありません。ということは、大企業でも小企業でも、職種が同じである限り、待遇は勤続年数で多少の変動はありますが、基本的には同じです。例えば、事務職としては、弁護士事務、医療事務、会計事務、旅行事務、公務事務、船舶・海運事務などの事務職があります。事務職に就くための教育期間は2年~4年でこの内の約半分は職場での実務となっています。これら事務職の人たちの給料は月額3万~4万クローネがほとんどです。

デンマークには約900種類の職種があると言われており、職種別の給料体形が取られ、職種別に労働組合が雇用者との間で、労働条件の取決め(注)をすることになっています。こういうことで、デンマークでは企業名で会社を選ぶのではなく、職種が職場を選ぶことになりまた、デンマークでは、日本でいう正規や非正規という職形態はありませんので、全て正規です。デンマークには「派遣社員」制度もありますが、基本的には正規のスタッフが産休などで休んだ間の「代用」職として雇われる人たちです。雇用者が「派遣社員」を雇うことで人件費は安くなることはありません。

 

毎年、就労者の2割が職替えするデンマーク

職種別就労制度を導入しているデンマークの労働市場では、就労者と職場との関係は希薄であることから、デンマークの人たちはよく職場を替えます。20171月~9月までに職場を替えた就労者数は641,636 人で前の年(2016年)631,755人に比べ約1万人の人が職場替えをしました。ということはデンマークの就労人口約240万人の約27%が職替えをしたことになります。

就労者の職替えを容易にするため、デンマークでは労使間の間で、職業教育機関を用意し、就業者が次のステップを踏むための教育をしています。この種の教育期間の多くは約2年間で、学校に行く日数は月に2日~3日、授業料は約10万クローネ(日本円で約185万円)この内の75%が雇用者負担で残りは受講者負担となっています。つまり、デンマークの雇用者は職員や従業者が教育を受けることを支援しているということです。なぜデンマークの就労者は職替えするか、下記の表で見る通り、職種や受けた教育の期間によって、給料が違ってくるためです。

デンマークの公的職場で働く職種と給料の例を見ますと以下の通りです。

1.デンマークの公的職場での職種別に見た給料額

 

単位:デンマーククローネ(1クローネ約18.5円)

 

職種

20089

総給料(注)

20179

総給料(注)

伸び率

20082017%

日本円換算

20179

教員

33,603.44

41,885.88

24.65

775千円

児童教育者

28,235.51

34,550.54

22.37

639千円

州の看護師

32,247.22

37,933.93

17.63

702千円

社会福祉師

26,535.27

32,308.31

21.76

598千円

社会福祉補助員

27,915.17

33,614.25

20.42

622千円

特殊職員

33,336.09

38,706.87

16.11

716千円

社会教育者

30,107.57

35,749.21

18.74

661千円

児童教育補佐

21,227.53

25,650.37

20.84

475千円

ソーシャルカウンセラー

31,472.33

36,565.84

16.18

675千円

育児ママ(4名児童保育)

24,626.57

30,334.30

23.18

561千円

 注:総給料に含まれるもの、月額給料の他に企業年金に支払う分及び特別手当

上記表1で見る通り4人の子供を預かる、デンマークの保育ママさんの月額報酬額は日本円で約56万円となっています。保育ママさんが、保育ママの仕事をしながら、別な職業に転職するための教育制度があるので、いつでも、保育ママから別な職業に転職することが出来、それによって月収も増える可能性があります。

デンマークの公の職場で働く人たちの年金を含めた月額の税込み給与額は、リーマンショック以降殆どの職種で20%以上の伸びとなっています。

 

日本では?

日本の給料についてインターネット情報で調べてみました。それによりますと、民間企業で働く人の2016年の平均給与額は422万円、業種別で「電気、ガス、熱供給、水道業」に従事する人たちの給料は769万でトップで「金融・保険業」が626万円と上位を占め、最低は「宿泊・飲料サービス業」234万円と書いていました。また雇用形態別で見た2015年の給料は正規労働者の平均が487万円、派遣社員と非正規労働者の給料は172万円と正規労働者100に対しその割合いは35%になっていました。なお、日本の2017年における労働者数5,486万人の内正規職員及び従業員数は3,435万人、非正規職員及び従業員数は2,060万人で、この数値から労働人口全体の37%が非正規職員又は従業員であることが解りました。

 

職種別にみた生涯可処分所得

デンマークの職種別に見た生涯所得額について例を見ますと以下表2の通りです。

2.職種別に見た生涯(18歳~80歳)までの可処分所得(2017年価格)

   単位百万クローネ(百万kr。=1,850万円)

職種

可処分所得

未熟練工

100に対し

円換算

億円

未熟練(注)

11.6

100

2.1

職業教育受講者平均

14.4

124

2.7

内:電気工

16.4

141

3.0

  機械技師

15.0

129

2.8

  通商

14.9

128

2.8

  料理人及びウエートレス

  ウエーター

13.4

115

2.5

  社会福祉介護士

12.2

105

2.3

短期高等教育取得者平均(1)

16.7

143

3.0

内:装置取付工、建築技師

17.8

153

3.3

  農業技師

15.7

135

2.9

  実験室職員

15.1

130

2.8

中期高等教育取得者平均(注2

17.3

149

3.2

内:教員

16.8

144

3.1

  児童教員

14.1

121

2.6

長期高等教育取得者平均(注3

24.5

211

4.5

内:医師、歯医者

32.4

279

6.0

  弁護士

30.3

261

5.6

  物理・数学教師

23.5

202

4.3

  土木工学師

26.5

228

4.9

注:未熟練工、特に決まった職種を所持しない就労者

注1.   短期高等教育者;教育期間2

注2.   中期高等教育者:教育期間4

注3.   長期高等教育者:教育期間56

 

上記表2で見る通り、全く職種教育を取得しない人の生涯可処分所得額は11.6百万クローネに対し、何等かの教育を受けた人たちの所得は多くなっています。デンマークは日本とことなり、勤続年数に合わせ、給料が大幅に増える可能性は少ないため、就労者は新たな職種を求め、就学し、格を得た時点で職替えする。このことを可能としているのは、デンマークの就労者の労働時間が労使間の間(注)で守られ、職替えをするために必要な教育が受けられる仕組みが出来ているためです。

 

このことで、常時変動する世界情勢の中でデンマークの労働市場は常に必要な人材の育成を通し、生産性の高い労働者の確保につなげているようです。その結果、納税額も増え、そのことで国家財政も豊かになり、支援が必要な人たちへの財源も確保することが出来る、といった、国家全体に良い面での効果が表れる社会が出来ているようです。(了)

2018113

デンマークウアンホイにて

スズキ

注 労働組合の詳細については、こちらを参照