風のがっこう便り2016

ダウンロード
「風のがっこう便り」2016年12月.pdf
PDFファイル 1.5 MB

1.デンマークのオイルショック後のエネルギー政策の成果について
デンマークの人たちはオイルショックを教訓に国内エネルギー資源の活用に力を入れてきました。北海油田での原油と天然ガスの採掘、風力発電導入、バイオガスとバイオマスの利用そして地熱や太陽光発電と熱利用、これら国内資源の活用を通したエネルギー供給策の結果、デンマークの国内エネルギーの供給量は1990年約40PJから2014年には140PJまで増やすことが出来ました*。これを可能にしているのは、国民の意思が政治家を通しエネルギー政策に反映できる仕組みが出来ているためです。デンマーク人の国会議員選挙で投票率が85%と高いのは、国の政策に国民が関心と責任を持ち、政治家を通しいつでも国の方向性を変えることが出来る民主主義(民が主になっての主義)存在し、オイルショック後のデンマークが導入してきたエネルギー政策も国民の意思の表れと思っています。*電力量換算で40 PJ =111億kWh. 140 pJ=389億kWh。


デンマークの人たちは国内エネルギー資源の中で風力、麦わら、木材や可燃廃棄物の利用に努めてきました。これら国内エネルギー資源を効率良く利用するために、2005年にデンマークでは、電力会社を統括し、国家の直営機関(今日ではエネルギー供給と気候大臣が監督)としてエネルギーネットデンマーク(Energinet.Dk)を創設しました。2016年現在、エネルギーネットデンマークの職員数は900名、2015年の売上高120億クローネ(約2000億円)、高圧送電線網7060㎞保有し、ガスパイプ924㎞の運営管理、ガス貯蔵庫ユトランド半島とシェーランド島に各1か所運営管理をしています。エネルギーネットデンマークは不安定な風力発電や太陽光発電設備から供給される発電量に対し常時変動する需要量を把握し、隣接するドイツ、スウエ-デン、ノルウエーとの間で電力をやりくりもし、安価で安定した電力供給をしています。

 

2.デンマークの風力発電設備と洋上ウインドファーム発電量について
2016年7月現在、デンマークには大小含め5,992基の風車が建ち、その設備量は5,121MW(512万1千kW)あります。これら風車の年間総発電量(2015年8月~2016年7月)は127億3300万kWh.で、この発電量は同期間におけるデンマークの電力消費量338億4100万kWhの37.6%になっています。デンマークは世界に先駆け1991年、450kW の風車11基を洋上に設置し、その後洋上ウインドファームの増設をしてきました。デンマークの洋上ウインドファーム数は現在13か所に516基の風車が建ちその発電設備量は約127万1千kWになっています。洋上ウインドファームは障害物がないこと、海上の風況状況が良いことなどから陸内に設置した風車の設備に対し、発電量は平均82%と多くなっています。そのような理由もあり、デンマークの洋上ウインドファーム516基(一基当たりの平均設備量2.64MW)の発電量はデンマークの風力発電総量127億3300万kWhの約35%に当たる約45億kWhと言われています。

 

3. デンマークの風車の売電価格について
デンマークの売電価格制度は現在までに幾度も変更されました。2014年以前に設置された風車の売電価格は市場価格で(固定価格での契約も出来る)それに設置後20年間は炭素税からの還元分として0.1クローネ(2016年為替勘定で約1.6円)の助成金が出ます。2014年1月1日以降系統連係した風車の売電価格は2012年に決められたものですが、その売電への助成金制度について加筆します。デンマーク議会は、2012年3月22日、デンマークの政府与野党間で「デンマークエネルギー政策2012-2020年」を発表し、デンマークの再生可能エネルギー導入策の方向性を示しました。そして売電価格については、「2014年1月1日から定格出力換算で22,000時間までキロワット時当たり25オーレ(約4円)助成するが、電力市場価格が33オーレ(約5.3円)越えた場合、越えた分につきオーレ体オーレで助成金を削減、助成金を含めた売電価格の天井額はキロワット時当たり58オーレとしました(2016年11月現在の為替レートで9.28円)。また助成金の支給に関しては前記した22,000時間の内の30%は風力発電機の定格出力への助成とし、70%は受風面積(m2)当たり8MWhを助成する政策を導入」と決めました。この売電助成制度の文書を数値で説明しますと次の通りです。

(例)2300kWの風力発電機の助成金0.25krが受けられる発電量などの算出例:2.3MWのローター直径92.6m よって受風面積は(92.6/22 ×3.14)から6,731.2 m2
助成金が受けられる総発電量と助成金額及び年数:
a) 22,000時間×2,300kW×0.3=15,180,000kWh×0.25=----- 3,795,000kr.
b) 6,731.2m2×8000kWh ×0.7= 37,694,720kWh×0.25=----- 9,423,680 kr.
助成金の受けられる発電量-- 52,874,720kWh . 助成金額--- 13,218,680 kr.
c) 助成金が受けられ年数:52,874,720kWh/7.300.000kWh* =7.24年
* 発電量は設置場所とその年によって変動しますが、デンマークの標準発電量。
この助成金に市場価格での売電料が加算された額を風力発電事業主に支払うことになっていますが、その売電の市場価格は下落しています。風車からの売電を管理している会社の一つが風力発電・デンマーク社(Windenergi Danmark,2003年 風力発電事業者が創設した協同組合)ですが、そこが窓口となり事業主に月間の平均売電価格を算出し事業主に清算しています。事業主は同社との間で固定価格での売電契約も締結することが出来るようにしています。


4.中古風車市場の活発化が始まる
助成期間が切れた風車の売電価格は市場価格となり、既に触れましたが、設置後20年間は炭素税の還元分として0.1クローネが加算されます。デンマークの風車の売電価格はデンマークの西側と東側によって多少に違いが出ていますが、2015年の売電価格平均は西側(主としてユトランド半島)でキロワット時0.144クローネ(現在の日本円の換算で2.3円)でした。東側(主にシエーランド島など)の平均売電価格はキロワット時当たり0.16クローネ(約2.56円)となりました。この売電価格に炭素税の0.1クローネ(1.6円)を加算したとしても売電価格はキロワット時当たり西側で0.244クローネ(約3.9円)、東側でも0.26クローネ(約4.2円)にしかなりません。風車の稼働年数が20年を超えると、炭素税の助成金も無くなります。
今日稼働しているデンマークの風車基数は約6000基です。その内の20%に当たる1,200基が20年の稼働を越え、売電価格が安すぎてサービスメンテ費用、保険料が出ない風車も出て来ています。そのため、風車の所有者の中に売却を決めた人が多くいます。中古風車の売値はその風車の発電量に対し、0.5クローネから1.0クローネと言われています。ということは、デンマークで2百万kWh発電している1MW クラスの風車が百万クローネ~2百万クローネの間で買えるということです(日本円で約1,600万円から3,200万円)。デンマークでは、中古風車の解体から整備を設置をする事業主が出始めてきました。

9.原子力発電所の汚染土壌処理問題について思う。

  中間貯蔵施設、福島で本体着工 最終処分地は未定
  朝日新聞 2016年11月15日13時41分

環境省は15日午前、福島県の双葉町と大熊町で、東京電力福島第一原発事故の除染作業で出た汚染土などを保管する中間貯蔵施設の本体工事に着手した。1600ヘクタールの敷地に、県内で出る最大2200万立方メートルの汚染土など、除染廃棄物を貯蔵する予定だ。 着工したのは、汚染土を受け入れて分別・保管する施設の建設。視察した環境省の伊藤忠彦副大臣は「事業に誇りを持ち、一丸となって整備してもらいたい」と工事関係者に訓示した。 着工は環境省の当初の見込みより2年半遅れた。汚染土の保管は2017年秋ごろに始める見込み。だが、用地取得は11%にとどまり、工事の遅れが懸念されている。 国は施設で貯蔵した汚染土を45年に県外搬出する法律をつくったが、最終処分地は決まっておらず、めどは立っていない。」
上記(2016年11月15日)の朝日新聞に出ていた記事について私見を述べます。国外に住んでいる者が日本の政策に口を出すべきではないと思いながらも、あえて書かせていただきます。日本の平地の占める割合が少なく、日本の人たちは平地はもとより、傾斜地まで耕して生活してきました。明治1年(1868年)頃の人口約3400万人から、今日の人口1億2730万人へと増えた背景には、国外からの輸入もあると思いますが、気候的に恵まれた国土を最大に利用し、食料の確保に努めてきたからだと思います。日本の農地は跡継ぎがいないことが主な理由となって近年、耕作を放置をした農地が増えて来ています(耕作放置面積平成2010年約40万ヘクタール、1985年約13万ヘクタール)。にも関わらす農地を手放さい理由は、売却したくても買い手がいない農地もあると思いますが、日本人の土地対する執着心は、私が済むデンマークでは考えられないほど強いからだと思っています。
上記の朝日新聞の記事に記載されている、用地取得が進まない理由の一つとして、土地の売却を拒否している人たちの多くは、親から受け継いだ土地は離せないという義務感があるためだと思います。そのような人たちを説得するためには買取価格を引き上げるしか方法は無いと思います。日本の農地や畑の平均売買価格はネット情報によりますと0.1ヘクタール当たり(10アール当たり)田で約134万円、畑で約94万円と書いていました。福島原子力発電所周辺の田畑の値段は幾らになるかわかりませんが、仮に0.1ヘクタール当たりの田畑平均価格を100万円で買い取るとして、1600ヘクタールの土地の買収代は100万円×10×1600ヘクタールで160億円になります。おそらく地権者は、国または電力会社がどうしても必要な土地であると見込んでいるため、安く土地を売買することは無いと思えるので、買取総額はこれ以上になるはずです。それと1600ヘクタールを収するために何百人との(地権者一人当たりの所有面積平均0.5ヘクタールとしも、1600ヘクタール土地の地権者は3,200人になる)との間で膨大な交渉時間を必要とします。交渉に使う時間も含め、このお金を誰が出すか、結果的には電力料金への上乗せあるいは国の予算(税金)で賄うことになるはずです。仮に1600ヘクタールの土地を160億円で買い取り出来たとしても、放射能汚染物資の貯蔵地になるだけで、生産性はゼロで、一方国民の負担が増えるだけです。
このことを踏まえ、私が思うのは、日本には約6,800の離島があり、その内約6400の島が無人島です。これら島の所有権は少しの例外があると思いますが国がもっているはずです。誰も住んでいない離島の中に、福島原子力発電所の事故で汚染された土壌を保管できる島が無いか、検討する余地はあると思います(もしかしたら日本政府は検討しているかもしれませんが、そんな話が出てないような気がしてため)。そして、汚染土壌の運搬は航空自衛隊が所有するヘリコプターを利用することで、汚染土壌を路面運搬することを避ける。それによって汚染土壌運搬における反対者を説得できるのではないかと思えるのです。もしこの可能性が見いだせれば、将来または次世代の人達が1600ヘクタールの土地を農地としてあるいは太陽光発電の場所*としてまた、バイオマス発電所の敷地などいろいろな面で利用できるのではないでしょうか。
*1600ヘクタールの土地に太陽光発電パネルを敷き詰めて発電出来る量は細かな計算は別としても、年間23億~25億キロワット時(kWh)の発電が出来ると見ている。
下記表で見る通り、日本の原子力発電所から出る廃棄物は、今後、増えます。日本の原子力発電所の多くは老朽化し、近い将来、解体による膨大な費用の負担だけではなく、中間処理を含めた処理場の問題がでてくるはずです。それだけに、国民への負担と国土利用を考えた時に、誰もが嫌がる放射能汚染物資は、無人島を利用するのが最善ではないかと思う次第です。無人島における放射能汚染物質の管理は誰がするかなど色々考えなければならないことが出てきますが、サテライトからの監視など、解決策はあると思います。


10.日本の原子力発電所の後始末代について
日本の原子力発電所の解体には①原子炉の老朽化による解体と②2016年の「電力自由化」によって採算が取れないために、解体せざるを得ない原子力炉があると思います。福島第一原発の1号基から4号基のように廃炉を決めた原子炉もありますが、運転開始から40年を超えた老朽化の原子炉が7基あります。その他に、今から8年以内(2024年までに)に運転開始後40年歳迎える原子炉は14基(青色)あります。
これら原子炉の廃炉に伴う費用は幾らになるのか、(日本の通商産業省の試算では一基当たり210億円の損失としている)廃炉費など、電力会社だけで原子力発電所の後始末代を負担出来るかどうか判りませんが、仮に電力会社が原子力発電所の後始末ができなければ、国で負担せざるをえないと思います。国とは国民なので、国民の納税額を使うか、あるいは電力料金に上乗せすることで賄うか、など今から廃炉原子力発電所の廃炉費用への対策を考えておくことだと思います。それと原子炉解体によって出る放射能を含んだ瓦礫などの廃棄物処理においては、何処にどうして処理するのか、その対策を関係官庁、電力会社それに廃棄物取扱い業界と運搬業界を交えた協議会議を開催し、対策を練る必要があると思います。

11.チェルノブイリ原発の新ドームの工事が開始
1986年4月に大事故をおこしたチェルノブイリ原発の石棺工事が2016年11月14日から開始されました。欧州復興開発銀行(European Bank of Reconstruction and Development)が工事のまとめ役を務めることになっています。ドームの規模は長さ162メートル、高さ108メートル幅275メートルで重量は36,000トン建設費はデンマーククローネに換算すると118億クローネ(約1800億円)と言われています。このドームの設置によってこれから100年間、その周辺を放射能汚染から守ると語っています。

(写真の出所:European Bank of Reconstruction and Development)
チェルノブイリ原発も福島原発も、原子力発電所の後始末には膨大なお金がかかることを、我々に教えてくれています。それだけに、当然なことですが、原子力発電所の導入は最悪事態を想定し、その準備をしたうえで、稼働させ、または導入すべきだと思います。

 2016年12月
良い年末年始を迎えてください。
ケンジ ステファン スズキ
Kenji Stefan Suzuki
Hovedgaden 28
6973 Ørnhøj、Denmark
e-mail: sra-dk@post.tele.dk