デンマークの税財政について

 

             2018417日(火)青山学院大学での勉強会資料

 

はじめに:

本稿では、デンマークの財政に関し、日本のそれと比較しながら記述しました。その方が視聴者にとって理解し易いのでは無いかと思ったためです。

デンマークの国土面積は約43,0002(九州と山口県の面積に該当)、2017年末の人口数は約580万人で日本では兵庫県の人口(2017年約550万人)より少し多い。デンマークの人口数は過去10年間において30万人増えました(兵庫県の人口は2015年に比べ約32千人減った)。

デンマークの財政は、欧州連合加盟国(28ヵ国)との取決めにより、財政の構造的赤字幅は国民総生産額(GNP)に対し0.75%を超えないことになっています(但し、デンマークの予算法(Budgetlov)の規定では0.5%超えないこと、にしている)。またEU諸国は年度毎の財政実績赤字額GNPに対し3%を越えないことを取決めています。

 (参考)デンマークのGNP 総額2640憶クローネ(2016年)

      2015年一人当たりのGNP52,000ドル(日本32,500ドル)

下記図1.は欧州連合28 ヵ国の国別に見た2015年における対GNP比での国家財政黒字と赤字率です。黒字国はルクセンブルク、ドイツそしてエストニアの3か国のみで、デンマークの赤字率は2.1%となっています。2015年における欧州連合28ヵ国の財政赤字平均値は対GNP 比で約2.7%となっています。

 

 

図1. 2015年欧州28ヵ国の公共財政赤字又は黒字()

 

 

注:ØMUとは英略EDP( Excessive Deficit Procedure)で日本語では

過度の赤字手続きと訳されている。欧州28ヵ国の安定した経済成長

に繋げるためGNPに占める財政赤字額の限度を規定したものである。

 

緑色の棒グラフ EU 28ヵ国平均値 約2.7%

ユーロ19か国平均値は濃緑棒グラフ

赤色の棒グラフ デンマーク

 

加筆しますと、2012年から2014年のデンマークの国家財政の赤字額は対GNP比率で3.5%(2012), 1.1% (2013), 1.5% (2014)でした。2016年の見込み財政赤字額は551憶7,400万クローネ、GNPに対する赤字率は0.267%と試算されます(551憶7,400万/2兆640憶).
図2は欧州28ヵ国の国別に見た2015年における国全体の債務総額の対GNP比率ですが、欧州連合では国全体の債務総額の割合をGNP比率で60%を超えないことのガイドラインを設けており、欧州28 ヵ国の中でこのガイドラインを守れている国はデンマークを含め11ヵ国です。2015年におけるデンマークの国全体の債務総額は対GNP比率で40.2%となっています。

 

 

 図2.2015年欧州28ヵ国の国別に見た対GNP比での債務総額率

 

 

 

デンマークの債務総額の対GNP比率について追記しますと、201245.2% , 201344.7% そして2014年は 44.8% です。

 

デンマークの2016年における国の総債務額は7,782憶クローネで対GNP比率で37.7%となり、前年2015年の8,015 憶クローネに対し233憶クローと2%減りました。純債務額では689憶クローネで対GNP比率では3.3%となり、デンマークの国の純債務額は総債務額の10分の1となっています。純債務額が総債務額に対し少ない理由は、国の国立銀行への預金、社会年金基金の債権保有額が多いためと言われています。

 

参考までに日本の総債務額と純債務額について、20134月の発表された資料*によりますと、2012年債務総額率は対GNP237.9%、純債務額率は対GNP134.3%となっています。

 

* World Economic Outlook, April 2013 s. 161

 

 

1.デンマークの歳入について

 

デンマークの国の財政が欧州28ヵ国の中で健全である背景に、デンマーク経済の成長が基となり納税額が増え、国家の借金額を減らすことが出来たと考えられます。デンマークの国全体の納税額の推移について、2011年から2018年までの主*な納税項目別に見た歳入額をみますと表1の通りです。* これ以外の税収入もあるという意味での主な納税額とした。

 

 

表1.デンマークの主な納税額推移(20112018)単位:10億クローネ(約185

憶円

分類            年

2011

2012

2013

2014

2015

2016

2017

2017/2011(伸び率)

 

比率%

1.直接税合計額

528.5

557.4

631.4

652.4

609.4

615.6

622.4

66.9%

118%

所得及び不動産税(国税)

129.8

135.3

140

143.1

152.4

158.5

165.8

17.8

128%

 

内:健康保険料

63.8

57.6

50.8

43.4

35.8

27.9

19.3

2.1

30%

 

         不動産価値税

12.8

13

13.2

13.4

13.6

13.9

14

1.5

109%

労働市場負担金

80.4

82

82.6

84.7

87.3

90.2

95.3

10.2

119%

市町村所得税など

202.4

209

215.2

220

226.8

235.5

243.9

26.2

121%

 

内:所得税    

196.8

203.1

209.3

214

220.7

229.2

237.3

25.5

121%

 

         教会税

5.7

5.8

5.9

6

6.1

6.3

6.6

0.7

116%

株収益税

13.5

11.6

13.5

12.3

20.9

26.7

20.5

2.2

152%

 

内:累進納税額(42%

9.5

8.9

9.6

10.8

16.8

15.2

12.5

1.3

132%

法人税

31.4

41

45.7

49.2

54.3

55.2

62

6.7

197%

その他計

71

78.5

134.4

143.1

67.7

49.5

34.9

3.8

49%

2. 間接税合計額

275.1

278.6

283.8

273.9

288.8

299.6

307.7

33.1

112%

消費税

174

177.4

181.2

174.6

185.9

196.1

200.9

21.6

115%

エネルギー税

35.8

34.2

35.4

35.2

34

33

34.7

3.7

97%

自動車税

25.8

25.3

27.8

28.4

30.4

32.1

33.6

3.6

130%

 

 内:登録税

13.8

13.1

14.9

15.9

17.6

19.5

21.2

2.3

154%

環境税

9.6

9.9

10.7

7.7

8.2

7.7

7.3

0.8

76%

 

内:二酸化炭素税

5.9

5.7

5.9

3.6

3.7

3.6

3.5

0.4

59%

ゲーム税

2.3

1.7

1.6

1.6

1.8

1.9

1.9

0.2

83%

その他の間接税 

13.6

16.4

15.7

14.1

15

14.6

14.3

1.5

105%

 

内:タバコ税

7.5

8.2

8.4

7.1

7.7

7.1

6.9

0.7

92%

1 + 2 合計額

803.6

836

915.2

926.3

898.2

915.2

930.1

100%

116%

円換算(兆円)約

14.9

15.5

16.9

17.1

16.6

16.9

17.2

 

 

 

(出典:Skatter-Provenuet af person-og selskabsskatter, 19.jan. 2018

                   Afgifter-provenuet af afgifter og moms, 14.sept. 2017 )

上記表1は、デンマークの納税額の2011年から2018年(2018年は見込み額)の推移で、納税額は直接税と間接税に分けて記載しました。2017年の納税額総額は9,301憶クローネでこの内、直接税額が6,224憶クローネで総納税額の66.9%を占め、間接税額3,077憶クローネで総税額の33.1%と占めています。デンマークの歳入額には他に国鉄を含めた国の事業団体29社からの財貨売買額などあり、実際の国家の税収入は表1に記載した直接税と間接税額よりも多くなっています。

 

a.直接納税額について

2017年におけるデンマークの直接税歳入総額は6,224憶クローネでこの内約26.6%に当たる1,658 憶クローネは所得及び不動産税です。教会税を含めた市町村納税額は2,439 憶クローネで直接税歳入額の39%となっています。「教会税」は日本には無い税金項目ですが、デンマークの宗教は憲法の規定で「ルーテル福音書」をベースにした国教があり、教会省が在ります。教会税はデンマークに所在する約2,400カ所の教会の運営管理の財源となる税金です。

デンマークの法人税率は2007年の25%から2014年には24.5%に、2015年には23.5%そして2016年から現行の22.0%に引き下げられました。2016年時点でのデンマークの企業数は約556千社で、デンマークの人口比で見ると約10人当たり1社の割合となっています。(580 万人/556,000=10.43人)。

参考までに日本の企業数は約413万社と言われており、人口比で見ると約30人に1社の割合となる(1.27 憶人 /413 万社=30.75人)。デンマークは世界で最も起業しやすい国と言われ、起業登録や閉鎖がごく簡単で、資本金1クローネ(約18.5円)で起業できる制度もあります。デンマークの企業数が人口比で日本に比べ多いのはデンマークの教育が起業家が育つ制度になっていることと、行政制度上起業がし易い仕組みが出来ているためだと思います。

デンマークの企業が払った法人税額の推移は上記表1の通りですが、2017年デンマークの法人納税額は620憶クローネで直接税歳入総額6,224憶クローネの約10%に当たります。法人納税額が多い企業について、2015年のデータで見ますと、法人税額543憶クローネの約34%に当たる187.5憶クローネ(約3,469憶円)は下記企業10社によるものです。

32015年のおける法人納税額トップ10

 

企業名

納税額、

憶クローネ

 

 

 

業種

 

 

Novo Holding

53.9

製薬会社

Lego

32.0

玩具会社

Danske Bank

22.6

金融

Nordea Bank Danmark

18.5

金融

Foreningen Nykredit

14.6

金融

hell Olie-og Gasudvinding

10.0

石油&ガス

Pandora A/S

9.2

アクセサリー

TDC A/S

8.4

電話&通信

A.P.Møller-Mærsk

6.9

海運

Coloplast

5.8

医療品

Danske Spil (国営)

5.6

ロット―

上記10社の法人税総額

187.5

 

 

2015年デンマークの法人税額543憶クローネを1社当たりの平均にすると、約98,000クローネとなり(法人税総額543憶クローネ/556,000 =97,662kr.)円換算で約180万となる。但し、2015年デンマークの企業で赤字や収益ゼロで法人税を払えなかった企業も当然あったはずで、全ての企業が法人税を払ったわけではないことを加筆します。

 

さらに法人税について付け加えますと、2016年デンマークの法人税納税企業のトップはNovo Holding (Novo Nordisk/ Novozymes)57憶クローネ、2位はDansk Bank30憶クローネでした。2017Novo Nordisk が払った法人税額は約70憶クローネ(1,295憶円) で同社は3年連続で法人税納税額トップになっています。

b.間接税について

デンマークの間接税の中で、最も多いのは消費税額です。デンマークの消費税率は全ての消費に対し一律25%で、1992年に22%から現在の25%に引き上げされました。2017年の間接税歳入総額3,077憶クローネの内の約65(納税総額の21.6%)に当たる2,009憶クローネが消費税です。

デンマークの2017年のおける納税合計額は9,301憶クローネで、日本円に換算すると約17.2兆円となりますが、デンマークの人口約580万人、一人当たりの納税額を算出しますと約16万クローネ、日本円で約297万円の納税額となります (9,301憶クローネ/580万人×18.5=2,966,698)

2.日本の納税額について

図3は、1987年から2017年の日本の一般会計歳入額の推移です。2017年度の歳入額を見ますと、歳入総額は57.7兆円で、所得税の占める割合は31%の17.9兆円、消費税は29.6%7.1兆円そして法人税は21.4%12.4兆円です。これら3部門の総歳入額に占める納税額の割合は82.1%に当たる47.4兆円になっています。

a.所得税:一般会計の歳入総額は199060.1兆円であった。その内の43%に当たる26兆円が所得税でしたが、その後デフレ経済とリーマン・ショックなどの影響を受けたためか、所得税の歳入が落ち込みました。2011年頃から所得税の納税額がが増えて来ていますが、それでも2017年における所得納税額17.9兆円で1990年の納税額26兆円に比べ68%の水準に留まっています(17.9/26=0.68)。

b.消費税:納税額は1990年の4.6兆円から徐々に増え、2017年には17.1兆円と約3.7倍の伸びました。前述した通り2017年の消費税の納税額は一般会計税収入の29.6%(17.1 /57.7 =29)で日本の財政上重要な財源となっています。日本の消費税の導入史を見ると、日本で初めて消費税は導入されたのは19894月で、税率は3%でした。その後199411月4%、199745%そして201448%と引き上げられました。日本では消費税1%当たり納税額は約2.5兆円と言われています。2017年の例で見ますと、1%当たりの納税額は2.13兆円(17. 1兆円/8%=2.13兆円)となっています。

c.人税:日本の法人税額の推移では1989年をピーク(納税額19兆円)に徐々に増えたり減ったりし、2009年には6.4兆円まで減っています。その後法人税の納税額が徐々に増え2017年度には12.4兆円となっています。

図3.1987年から2017年の日本の一般会計歳入額の推移