EU議員選出選挙を終えて

 

2019526日(日)デンマークでEU議会議員選出選挙がありました。その結果は以下の通りです。EU諸国数は28カ国(内英国は1031日を持って離脱予定)で議会議員数は751名ですが、デンマークの議員数は2019年の選挙から1名増え14名となりました(イギリスの離脱が理由)。

表1.EU議会議員選挙の結果        

政党名

2019

526

2014

424

増減

自由党

4

2

+2

社会民主党

3

3

0

社会人民党

2

1

+1

デンマーク国民党

1

4

-3

自由急進党

2

1

+1

保守党

1

1

0

赤緑党

1

0

+1

EU反対党

0

1

-1

14

13

 

 

 (参考)デンマークの人口推移(単位:千人) 

20145,627

20155,660

20165,707

20175,749

20185,778

20195,806  

 

EU議会の議員数は各国の人口数により決まります。 

2014年の議員数の多い国順

①ドイツ96名、②フランス74名、③イタリアとイギリス73名 ⑤スペイン54名、⑥ポーランド51名。

 

図1.投票率の推移と、EU諸国の投票率 

出所:Kristeligt Dagblad, Tirsdag den. 28. marts 2019, s.4 

20195月選挙における各国の投票率

高い投票率順:①ベルギー89%、②ルクセンブルク84%、③マルタ73%、④デンマーク66%、⑤スペイン64%、⑥ドイツ62%、

低い順:①スロヴァキア23%、②チェコ29%、③ポルトガル、ブルガリア31%、⑤リトアニア34%。

EU諸国の投票率の推移(赤:デンマーク、青:EU平均)

EU全体の投票率は1979年の直接投票導入以来下がり続けて来たわけですが、イギリスが離脱を決めたことで、残ったEU諸国の結束に繋がり、その結果が今回の投票率を引き上げることになったと、報道関係者が見ています。

 

デンマークのEUとの関係について 

デンマークが欧州経済共同体(EEC)*に加盟したのは197311日です。それに先立ち欧州経済共同体にデンマークが加盟するかどうかの国民投票は、1972102日に実施され、その結果、加盟賛成63.4%、反対36.6%で、デンマークの加盟が決まりました。なお、投票率は90.1%で国民の欧州経済共同体加盟への関心が高かったことがわかります。

*現在のEUEuropean  Union欧州共同体という名称になったのは1993年で、その前は1957年に導入されたEECEuropean Economic Community, 欧州経済共同体と呼ばれていた。  

 

デンマークがEECに加盟するきっかけになった主な理由は、豚肉を高く売りたかったためです。デンマークの気候と平坦な耕作地を生かし、他に天然の資源がないことから、国土面積の約62%に当たる約265万ヘクタールが農地になっています。デンマークの農家が生産する酪農製品や豚肉の量は、国内では消費しきれないため、長い間デンマークの酪農製品や肉類の多くは国外に売られ、今日においても同じです。売り先の多くは欧州諸国になっています。

少し古い数値ですが、デンマークがEEC加盟する前1970年と1971年のデンマーク全体の輸出額に占める、動物性農産品の占める比率は1970年で19.7%、1971年で18.8%になっていました。そして動物性農産品全体の輸出額に占めるEECへの向けの比率は197025.9%、197124.3%で、この数値で見るとおり、デンマークがEECに加盟する前からデンマークの農業にとっては、EEC は大事な市場になっていました。

デンマークは197311日からEEC加盟国**になったわけですが、デンマークの農業にとってEEC市場はデンマーク農業の生死に繋がる重要な市場になっています。このことについて、デンマークの動物性農産品の輸出の代表ともいわれて豚肉の輸出推移を見ますと以下の表です。

**1973年に加盟国になった国はデンマーク、アイルランド、イ

 

2:輸出国別に見たデンマークの豚肉の量の推移(単位1,000トン) 

 

1990

2000

2009

2010

ドイツ

133.4

293.9

608.3

624.3

UK(英国)

241.3

256.4

282.7

284.0

ポーランド

 不明

24.0

182.8

188.7

イタリア

75.3

111.7

112.1

122.3

フランス

107.1

76.9

18.1

18.1

その他EU諸国計

33.7

114.0

179.8

178.4

EU計 (A)

590.7

877.0

1.383,8*

1.415,9*

EU諸国以外計

306.2

595,3

524,1

577,4

内;中国/香港

不明

45,6

156,5

171,8

  日本

115,1

218,2

129,8

139,4

  アメリカ

95,6

63,1

36,0

37,0

         その他国計

95,5

268,4

104,8

229,3

合計 (B)

897,0

1.472,3

1,907,9

1.993,2

(出典:Statistik 2010 svinekød, s.31)

*デンマークは小数点以下はコンマ(,)で表示

   

   デンマークの豚肉輸出

 EUの占める割合:(A)/(B)*

     199065.9 %

     2000 59.6 %

     2009 72.5 % 

     2010 71,0 %

     *筆者試算

デンマークの豚肉の輸出量は、イギリスがドイツに次いで2番目に位置していますが、そのイギリスがEU加盟を継続するかどうかについての国民投票を2016623日実施しました。国民投票の結果離脱賛成51.9%、反対48.1%で離脱することが決まりました。イギリスがEUから離脱する理由の中にEUへの拠出金が多過ぎることもありました。2014年イギリスが支払った純拠出金額364億クローネとなっています(因みにデンマークの純拠出金額は62億クローネ*)。

イギリスがEUから離脱を決めたことで、デンマークの豚肉を含めた食糧品のイギリス向け輸出への懸念、つまり売れなくなるのではないか、という心配が生まれてきました。2017年デンマークのイギリス向け食糧品の総額は170億クローネとなっています。この中で多いのは酪農製品37億クローネ、豚肉34億クローネ、魚貝類15億クローネです。 

*2016年デンマークの拠出金額178億クローネ、受けた額106億クロー円、純拠出金額72億クローネ。EUへの拠出金額はGNI比によって決まり、デンマークの拠出金率は対GNI0.9%となっています。

 

デンマークにおけるEU議会議員選出選挙の結果から見えること

2019526日デンマークのEU議会議員選出選挙の結果については表1で記述した通りですが、政党Venstre(自由党)が伸びた理由は、農民層におけるEU離脱を決めたイギリスへの今後の農産品輸出のへの懸念、気候変動による乾燥による農作物への被害が背景にあると見ています。つまり、2019EU議会議員選出選挙は、イギリスのEU離脱による農家の経済への関心が高まっている証拠だと見えます。それと、昨年そしてまた今年と雨不足が続き中で農作物への被害に対し、政党Venstreがどんな支援策を出してくるのか、への期待が政党Vestreへの投票率を増やした理由になっていると私は見ています。

もともと政党Venstre(自由党)は農民の団体によって、創立した政党*で、今日においては、議員の中に農場経営者は殆どいませんが、それでも、政党Venstreへの農民層の支持や支援は多いです。 

*自由党:Venstre の正式名称Danmarks Liberale Partiですが、略称で日常ベンスタと呼んでいます。政党ベンスタの創立史をみますと、184656日、デンマークの小作農と自営農家が農民の解放を目的として農業経営者団体を創立しました。この団体がその後大農と小農を加えた連合会「農民友好会」を創立し、1870年に連合自由党に名称を改名し政党Vestreを創設し、今日に至っています。そういうことで約150年の政党史があります。 

その一方でデンマーク国民党のEU議員数は2014年の選挙で得た4議席から2019年の選挙では1議席に減りました。主な理由はEUとの関係ではあくまでもデンマーク中心とした政策を採り、この中には難民問題と追い出し対策、関心を持たない気候問題への対策などが支持率を引き下げた理由になっているのではないか、と私は見ています。

 

2019年5月28日 デンマークウアンホイにて

    ケンジ ステファン スズキ