国防と猪対策

2019129日(火)付けデンマークの新聞Kristeligt Dagblad 2 ページによると、アフリカの豚ペストからデンマークの養豚を守るため、昨日(128日)からドイツとの国境にヘンス(垣根)を設置する作業に入ったと報道しています。同紙によると垣根の高さは1.5メートル、総距離は70キロメートル、工事費は3千40万クローネ(約6億円)で今年の秋には完成すると書いています。垣根の設置に関して、自然保護団体など大反対が在ったのですが、デンマーク議会はその反対を押し切り、垣根を設置することを決めました。

デンマーク議会が自然保護団体などの反対を押し切ってまで、垣根を設置することを決めた大きな理由は、デンマークの養豚業会を守るためです。デンマーク農業の中でも養豚業の果たす役割が多く、もし猪がアフリカの豚ペストをデンマークに運び込んできた場合に、受ける被害は今のお金で約110億クローネ(約2000億円)と膨大になるためと同紙は書いです。既にアフリカの豚ペストで被害を受けている国はポーランド、バルト海諸国、ベルギーでフランスでは軍隊に猪を見つけ次第、射殺を許可しているとも書いています。

国防とは軍隊によって国を守るというだけではなく、国民生活を守るのも国防の一つだと私は見ています。その中でデンマークの養豚業界による国家への貢献は図り知れないものがあります。

デンマークの国土面積の約61%の263万ヘクタールが農地になっており、農家数は毎年減り2012年約42,000戸(内養豚農家5,068戸)の農家数が2015年の数値で見ると約36,600戸(内養豚農家約3,769戸)に減りました。そのこともあり一戸当たりの農地面積は2012年の65ヘクタールから2015年のそれは72ヘクタールに増えました。養豚業について見ますと、解体した豚数は2000年約2,020万トン、2013年約1,900万トン、2015年約1,800万トンで、養豚農家一戸当たり出荷量は2000 年の約4,000トンから2015年のそれは4,820トンに増えています。

デンマークの2015年の総輸出額は約6,350億クローネ(約12兆円)その内の約25%に当たる約1,570億クローネが食糧品の輸出額となっています。また、農業及び食糧生産部門の雇用面では、約19万人の雇用となっています。

デンマークでは国民生活に欠かせない食糧を自国内で確保することにその関係者は努め、その都度、必要に応じ、政治に働きかけ、守ってきました。アフリカ豚ペストがデンマークに入ることで、デンマークの養豚業界が大きな被害を受け、そのことで国民生活に支障を来たすことに政治が懸念し今回、ドイツとの国境70キロメールに渡って垣根を設置することにしたのも、国民生活を守る国防の手段だと思えるのです。

2018年、世界の中で最も「汚職の無い国」として180カ国の中でデンマークは一番になりました(注)。デンマークが世界の中でも最も汚職が無い理由の中に、長年かけて育成した国民の信頼文化がデンマークに在ることと、裁判所への絶対的信頼を国民がもっているためだと、言われています。

そんな中で野生の動物を守るかそれとも国民生活を守るかの判断は国の運営管理者への課題で在りまた、対策を取るのはその責務に置かれた人たちの義務でもあると私は見ています。その為には国民の政治及び裁判所への信頼と公務に着く人たちへの信頼が必要だと思えます。

写真は猪の侵入を防ぐために設置が始まった垣根工事の写真

(出典:2019129日付けKristeligt Dagblad 2ページ)

(注)汚職が少ない国トップ10か国      

① デンマーク      ⑥スイス

②ニュージーランド    ⑦ノルウェー

③フィンランド      ⑧オランダ 

④シンガポール      ⑨カナダ

 

⑤スウエーデン      ⑩ルクセンブルク

 

2019年1月29日