風のがっこう2010年12月

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2010 年は終ろうとしています。皆様ご無沙汰していますが、お変わりなく暮らしてしている ことと思います。今年も 3 回に分け訪日し、各地での講演、新聞社でのインタビュー、家族訪 問、国内旅行など含め約 150 日間日本に滞在しました。近年「風のがっこう」の研修活動が大幅に減りそれで、出来た時間は、デンマークを紹介するための原稿の執筆に充てています。今 年 4 月、合同出版社から『デンマークが超福祉大国になったこれだけの理由』を、11 月には 角川 SSC 社から新書『消費税25%で世界一幸せな国デンマークの暮らし』を出版させてい ただきました。そして 12 月には著書『なぜ、デンマーク人は幸福な国をつくることに成功し たのか』5刷することが出来ました。デンマークの生活は 43 年が過ぎ、国民年金所得者とし て守られた生活をしていますので、その償いとして、これからも機会を見てデンマークという 国の事情を紹介して行きたいと思っています。 では、良いお年を迎えてください。 

・ ・・・・下記は各地で講演した資料の一部です・・・・・ 

① オイルショックを教訓を活かしエネルギー自給を果たしたデンマークについて デンマークのエネルギー計画 1976 年によると: 

・ 発電所の燃料を石油から石炭、原子力に切り替える。原子力発電の導入に関しては 1985 年 から 1993 年までに 90 万kW の原子力発電所 4 か所、さらに 1995 年から 1999 年までに 130 万kW の原子力発電所 2 ヶ所の建設。 

・ 北海油田の開発 

・ 発電余熱を地域暖房として利用する。 

この中で、原子力発電に関しては、発電事故の問題、放射能物資の処理問題など、不安が大き 過ぎることを理由に, 産業界や政界が推進していた原子力発電導入策に対し、主に市民団体が 反対運動を起し、1985 年 3 月議会において「原子力発電に依存しない公共エネルギー政策」を 可決させました。デンマーク人の原子力に依存しない公共エネルギー政策に取って代わったの が、再生可能エネルギーの導入策です。 デンマークが取り入れた再生可能エネルギーとは国内資源のことで特に風力発電やバイオガス、廃棄物利用のことです。この選択は今日において、 風力発電メーカーの育成とそれによる輸出産業を起し、発電燃料の節約などを通し、デンマー ク経済に大きなプラスになっています。今後、原子力発電導入国で問題となる、放射能物資の 処理や保管とそれにかかる費用を考えるとデンマークの人達の選択は間違っていなかったと思 えます。何故ならば: 

デンマークの南の国ドイツのカールスロシュ(Karlsrushe)では、60 トンの高放射能物資の再利用が出来ないまま保管されいますが、再利用のための建設費は 1991 年の見込み額 41 億 2 千 万クローネ(約 660 億円)に対し、今日までに(2009 年時点)195 億クローネ(約 3120 億円)使かわれ、またネダーサックス(Niedersachsen)には 12 万 6 千本のドラム缶の分量に当たる原子 力発電所の廃棄物が保管され、保管量の総額は 2005 年見込み 64 億クローネ(約 1000 億円)を はるかに超え、今では、150~300 億クローネ(2400 億円~4800 億円)になると報道されてい ます(Jyllands-Posten fredag den 24.juli 2009 による) 。 

デンマークの隣の国スウエーデンはバースベック原子力発電所(60 万キロワット 2 基)の解体 工事に取り掛かっています。1994 年に書かれた報告書によると 2 基の解体に 16 億 34 百万クロ -ネ(現在の為替レートで約 300 億円)のお金が掛かると書いていました。スウエーデンの電力会社は原子力発電所の解体費用として発電量1kWh(キロワット時)当たり 2.4 オーレス ウエーデンの国立銀行に積立しています。 

原子力発電を選択した日本の例で見ても、毎年約 2,500 億円の燃料費を負担し、国から原子力関係 予算として毎年約 4000 億円のお金が使われていると『原子力は金食い虫』(速水二郎氏)の著書に書 いていました。そして現在ある 54 基約 4900 万kW の発電所の解体費用で何十兆円にもなると語ら れています。日本の国民が選択した電力供給体制とは言え、国家の借金を増やしながら(2000 年 9 月から 2010 年 9 月までの間に国債、借入金、政府短期証券の総額は 511 兆円から 909 兆円に増 大)電力消費量の約 30%を得るために、何故これだけのお金を使わなければならないのか疑問に 思っています。デンマークの人達は自然エネルギーの導入策は「不安定であてにならない電力供 給」といわれながらも、その難しさを乗り越え、次世代に過大な負担を虐げる施策をしないことに 努めています。その結果、デンマークでは高齢者になっても恵まれた生活が出来ているのは、次世 代にツケを残さない、エネルギー政策の導入を選択した結果だと思えるのです。この政策はデンマ ーク人の幾度の国家存続危機から習得した、国民の知恵だと思えます。 

② 世界最大の洋上ウインドファームを所有するデンマーク 

デンマークのエネルギー政策目標値:2020 年までに陸内に 350 万kW、洋上に 280 万kW の風力発 電を設置し、電力消費の約 50%を賄う。その中でデンマークの洋上ウインドファームの所有台数 は世界最大であり、また 1 人当りの風力発電所有量でも最大となっています(2009 年末 630W)。 

表1.2009 年 3 月現在と 2013 年末における洋上ウイドファームの設置年と設備量(見込み) 

ウインドファーム名 

設置年 

基数 

1 基当りの 

出力(kW)

発電設備量計 (kW)

1. Vindeby 

1991 

11

450

4,950

2. Tunø 

1995 

10

500

5,000

3. Middelgrund 

2000 

20

2,000

40,000

  4. Horns rev I 

    Horns rev II (注 1

2002 

2009

80 

91

2,000 

 2,300

160,000 

 209,300

5. Rønland 

2003 

8

2,150

17,200

  6. Nysted 

2010 年 10 月 12 日完成(注2)

2003 

2010

72 

90

2,300 

 2,300

165,600 

 207,000

7. Samsø 

2003 

10

2,300

23,000

8. Frederikshavn 

2003

3

2,533

7,600

9. Avedøre Holm 

2009 

2

3,600

7,200

10. Avedøre Holm 

2010 

1

3,600

3,600

11. Sprogø 

2009 

7

3,000

21,000

12. Frederikshavn 

2009/10 

6

機種未確認 

_

13. Anholtparken(注3と 4) 

2012/13 

111

3,600

399,600

合計(2010 年末) 

 

411

 

871,450

2013 末 合計(見込み) 

 

522 

 

1,271,500

(出典:Naturlig Energi, maj 2009 s.23) 

(注1)設置場所はユトランド半島西海岸から 30km離れた北海で、設備量は全部で 209,300kW(2.3M W×91 基)で工期は 2008 年 5 月から始め、2009 年4月からナセルの設置開始 9 月完了。この洋上ウイ ンドファームによる発電量は 20 万世帯分の電力消費量に当たる約 8 億kWhと見込まれ、総工事費は 40 億クローネ(約 800 億円)と云われています。プロジェクトの名は Horns Rev II, この洋上ウインドファームは 2002 年に設置された Horns Rev I (2MW×80 基)と同じ海域にあり、その間の距離は約 20km離 しています。 

  

(注2) バルト海に設置する Nysted II というプロジェクトは、ローランド島から南に位置し、2003 年に設置 された Nysted I (2.3MW×72 基)から3km離れた場所に 2.3MW×90 基計 207,000kWの設備を 2010 年 10 月 12 日に完成させた。このウインドファームの発電量は約 20 万世帯の電力消費量に当たる約 8 億 kWh と見込まている。この洋上ウインドファームに使われた風車は元ボーナス社、現シーメンス社製の風 力発電機となっています。 

(注 3)2010 年 6 月デンマーク議会はデンマークユトランド半島北東部海岸沖合い20kmの場所に 40 万kW の洋上ウインドファームを建設することを決めました。 アンホルト(Anholt 島)ウインドファームと呼 ばれるこの洋上ウインドファームの建設はデンマークエネルギー公社(DONG)が施行主で、完成は 2013年、設置する風力発電機はシーメンスの 3.6MW の風車計111基となっています。 見込み発電量は 40 万 世帯の電力消費量に該当する約16億キロワット時(kWh)となっています。売電価格は最初の 12.5 年は キロワット時当たり 105,1 オーレ(約 16 円~21 円)、残る年数は市場価格となっています。なお、シーメン スの 3.6MW の風発電機は洋上用として開発された風力発電機で 2010 年現在世界に約 150 基納品され ており、また、シーメンス社によれば受給している基数は 1000 基と言われています。この内に半分に当た る 500 基は北ヨーロッパにおける洋上ウインドファーム用となっています。因みに 2010 年 11 月現在にお けるシーメンスウインドパワーの受給額は 740 億クローネ(約 1.2 兆円)、ベスタス社の 480 億クローネ(約 7800 億円)と合わせ、世界中からデンマークに所在する風力発電機メーカーに膨大な風力発電機のオー ダーが入っているということです。 このことは、デンマークの新たな産業と雇用を生んでいるということにも なるのです。 シーメンスウインドパワー部門の全雇用者数は 7,000 人内 4,200 人はデンマーク国内、ベス タス社の雇用者数は国内外合わせ約 22,000 人となっています。 

(注4) 世界最大の洋上ウインドファームを所有するデンマークの国営エネルギー公社 DONG 2009 年末における DONG 公社の洋上ウインドファーム占有率(主にヨーロッパ)は 54.9%、 で 2 番目は E.ON 社(ドイツ)の 16.8%そして REW 社(イギリス)の 15.4%となっています。 

ヨーロッパにおける洋上ウインドファームの建設計画(2011 年~2020 年)は次の通りです。 2010 年 110 万kW、2011 年 150 万kW, 2012 年 190 万kW、2013 年 240 万kW, 2014 年 250 万k W, 2015 年 310 万kW, 2016 年 350 万kW, 2017 年 420 万kW, 2018 年 480 万kW, 2019 年 580 万kW, 2020 年 690 万kW。このようにこれから先、洋上ウインドファームの事業経験がある デンマークの国営エネルギー公社 DONG が超多忙になることが見込まれています。国営エネルギ ー公社の営業成績を見ると 2010 年 1 月~9 月の売上高は 385 億クローネ(約 6,200 億円)減価償却 及び税引き前の利益は前年に比べ 32 億クローネ増え、100 億クローネ(約 1600 億円)になってい ます。利益が増えた主な理由は風力発電による電力供給によるものだとされます。なお、DONG は 風力発電の増設を進める一方石炭火力発電所 2 ヶ所を閉鎖し、それによって年間約 2 百万トンの二 酸化炭素の削減を計ることが出来ると云っています。(了) 

ケンジ ステファン スズキ  

Kenji Stefan Suzuki  

Hovedgaden 28  

DK-6973 Ørnhøj  

Tel. +45(Denmark) 97 38 68 69 

E-mail.: sra-dk@post.tele.dk