労働組合と失業保険組合

 

労働組合と失業保険組合について

2008年におけるデンマークの労働人口数は約292万人で、この内失業者数は約6万人になっています。ということは失業率は約2%ということです。デンマークの失業率は1997年から2007年までの数値で3%を上回ることが無く, それだけに2008年のデンマーク経済は好景気であったことが解ります。デンマークでは失業者数が9万人(失業率が3%)を切ると完全雇用といわれています。

 

近年におけるデンマークの好景気の影響で失業する可能性が少なくなったことが主な原因となり、労働組合費や失業保険掛金を節約する人達が増えその結果、労働組合や失業保険に加入する人達の数も減りました。例えば1997年失業保険加入者率は79.2%であったのに対し、その後、毎年減り、200477.8%、200576.9%、200676.6%、そして200775.0%となっています

それでも労働人口の約75%の人達が失業保険に加入しています。デンマークでは職種別労働組合と失業保険組合が一体になっているケースが殆どですが、労働組合に加入しない人でも、失業保険組合に加入することができます。失業保険に加入し、労働組合に加入しない人達の主な職業は自営業者と、管理職のため、労道組合入れない人達です。例えば、商店の経営者や農場経営者その他各種個人企業経営者の人達は労働組合が無い代わり、自営業者対象の失業保険組合に加入することができ、管理職の人達は「リーダー失業組合」に加入することが出来ます。

 

労働組合の役割

 デンマークの労働組合の役割は、組合員の労働条件の改善(基本給、手当てなど賃金・休暇・年金などについて)を雇用者側と団体交渉をするために存在し、また日常業務においては、組合員の職場のあっ旋、研修、そして、労働環境における法的支援をしています。例えば法的支援では、組合員の職場におけるいじめや過酷な労務問題、健康を害するような危険な職場での就労問題に対し、労働組合の法務スタッフが雇用者側と協議し解決策を見出す、と言ったことです。そういうことから、デンマークの労働組合、既に触れた、職業のスキルアップなど教育面も含め、労働者の労働環境全体の改善に努めています。2008年の数値で見ますと全国労働組合加入者数は1975300人に対し失業保険加入者数は208万6500人で約111000人で失業保険組合加入者が多いのは、上記で説明しましたとおり、労働組合に入れない、個人事業主が失業保険に加入しているためです。

 

失業保険組合に加入できる労働組合

デンマークではどのような職業についても必ず失業保険に加入できる組合があります。デンマークの失業保険組合数は2008年の統計数値で見ると29あり, 失業保険加入者数は約210万人になっています。この中でメンバー数の多い失業組合では、職業共同失業保険組合でメンバー数は約28万人、通商と事務員組合約25万人、職人と労働者組合約17万人、自営業者組合約135千人、職員と公務員組合約12万人です。筆者(私)の例では、医者の長女は「デンマーク若手医師組合」、繊維のデザイナーの次女は「デンマーク繊維組合」、風力発電機メーカー勤務の三女は「デンマーク修士組合」と「デンマーク経済及び法学士組合」に加入しています。デンマークの給与所得者のほとんどは労働組合に加入しないと失業保険組合に加入することは出来ません。労働組合に加入した人達は毎月労働組合費と失業保険組合に掛金を払います。この掛け金は所得税から控除できるようのなっています。労働組合に払うお金の額は、職種によって異なり、例えばデンマーク教員組合の組合費はスト基金の積立金含め、月額約480クローネ(約9,600円)で払い込み先は、デンマーク教員組合となり、月額約800クローネ(約16,000円)失業保険の掛金の払い込み先はデンマーク看護師組合で1四半期に毎に払う込むように、なっているようです。何故教員の失業組合費看護婦師組合に払い込むことにしたのか、詳細は解りませんが、デンマークでは、何千人という教員不足になっており、教員が失業する確立は少なく、独自の失業保険事務所の維持を止め、看護師組合に業務を委託し人件費など事務経費の削減を図ることが主な理由となっていると思います。 

   通常、デンマークの就労者は、その職種に合わせ、職種労働組合に加入します。労働組合費の内訳は、労働組合の組織を維持するための人件費と建物など運営管理費、スト基金となっています。

 ここでスト基金について、労使の団体交渉が物別れになり、政府の仲裁案が労使間で拒否されると、最終的に労使共「実力行動」に出る権利を使います。つまり労働者側はスト権を行使し雇用者側はロックアウトの権利を行使します。そうなると、雇用者は給料の支払を停止しますので、組合員は生活が出来なくなります。その時、組合員の生活費として充てるため財源として「ストライキ基金」が使われるのですが、支給額は、通常の給与額の9割と言われています。

  一方失業保険掛金の内訳は、失業した場合の失業手当、後期給与積立金という名目になっています。この中で、組合費を含め、失業保険掛金は所得税の中から控除できます。この労働組合費は加入する組合によって、かなりの差が出てきます。例えば、デンマーク看護師評議会の労働組合費は失業保険掛金、後期給与積立金を含めると、労働組合費は月額1,062クローネ(約2万円)になっています。 デンマーク教員組合の労働組合費は月額480クローネ、それに失業組合への掛金約800クローネ計1,200クローネ(約24,000円)になっています。安い組合費ではリーダー職に在る人達の組合で組合加入者数9万人、この人達の労動組合費は月額約82クローネ(約1,600円)それに失業保険への掛金約463クローネ(約9300円)となっています。このようにデンマークの労働組合費や失業保険組合費はその職種によって取り扱いや毎月払入込む掛金の額が異なり、少なからず複雑な仕組みとなっていますが、この背景に、デンマークの労使交渉には100年以上の歴史があると考えると、多少のずれが生まれてくるのも解るような気がします。たただいえることは、労使の信頼関係が今日のデンマークにおける数多くの労働組合と失業保険組合を作り、労使のセフテーネットになっている、ことです。

 

 デンマークの失業保険組合の中から主な組合員数と失業率を調べて見たのが以下の表です。

表 デンマークの主な失業保険組合名、組合加入者数及び失業率

 

2007年メンバー数

単位:1000

2008年の

失業率(%)(注)

アカデミカー(AAK)

74

2.1

教員組合

72

1.3

児童及び若年教育者組合

58

1.4

職員及び公務員組合

122

1.5

職業共同失業組合

278

4.1

通商及び事務員組合

249

2.2

クリスチャン失業保険組合

168

2.5

金属労働者組合

90

1.4

職業と労働者組合

166

1.3

自営業者組合

134

1.4

木材工業及び建築組合

45

2.9

全国計

210

2.1

(出典:Statistisk Tiårsoversigt 2008,s.47、注:Statistisk Årbog 2009. s.142 

  

失業組合と失業者への失業保険の支払いについて

デンマークの失業保険の支払いの仕組みに関し、簡単に説明します。

まず、失業した人は、失職したその日にジョブセンターにインターネット(Jobnet.dk)で通知するかあるいはジョブセンターに出頭し失業したことを通告します。②加入している失業保険組合に失業したことの声明書を送付します。失業声明書は給与所得者か自営業者、あるいは、新卒かによって書き込み用紙が異なります。③失業後遅くとも3週間以内に履歴書(CV)をジョブセンターに登録します。履歴書に記載する項目は住居の郵便番号、個人登録番号、電話番号、職歴と学歴などです。ジョブセンターに履歴書を登録するとそこから、その失業者の所属する失業保険組合に連絡します。失業保険組合はジョブセンターから受けたCVを審査し、その失業者に職業斡旋の連絡をします。失業組合から連絡を受けた失業者は、失業声明書、解雇された場合は解雇証明書、過去14ヶ月の給与証明書の写し、(14ヶ月以下の場合は就労した期間の給与証明書写し)、雇用契約書の写しを失業組合に郵送或いは、メールに添付して送付します。

  1. 失業組合は受け取った書類を元に失業者に失業保険支払いカードを発行し、失業保険の支払をします。

  2. 失業保険額は、過去の就労給与額の90%となっていますが、失業保険の支給最高額はデンマーク政府が毎年調整する生活保護額としています。その額は2010年の場合、完全失業保険加入者の場合、税込み月額16,293クローネ(約33万円)となっています。(パート失業保険加入者の場合は税込み月額10,855クローネ(約21万円)。

  3. 失業保険受給後9ヶ月過ぎた失業者に対し、ジョブセンターは、給与助成を元にした職業の斡旋、企業での実習、あるいは就学や研修の斡旋を始めます。

 失業保険の支給年数は4ヵ年で、4年を越えると失業保険の受給資格を失いますが、この4年間の内、完全失業保険加入者の場合、過去3年間に962時間、給与補填や助成を受けない、就労をした場合は新たに失業保険を受けることが出来ます(パート失業保険加入者の場合は629時間)。なお、4年間の失業保険が切れ、その後も就業出来ない人達は、失業保険から国庫負担の生活保護(現金支援)あるいは、障害者年金者に切り変わります。

 

就職浪人の新卒者には失業保険を支給

デンマークには毎年4月に新入社員を一斉採用するという習慣がないため、大学を卒業してもすぐには就職できないケースが出ます。一方で、大学を卒業すれば「就学支援金」の支給が打ち切られます。

学生の身分を失って就職もできないとなると、いわゆる失業者ですから、失業保険の給付の対象と考えられます。そうした場合に備えて、労働組合は新卒で仕事に就けない人たちでも労働組合に加入(任意)することを勧めています。卒業する14日前までに労働組合に加入し、卒業後すぐに、「失業組合」に失業者として登録すると、1カ月後には労働組合から失業保険が支給されます(失業保険が出るまでの1カ月間の生活費は生活保護を受けることも可能ですが、生活保護の受給には、たとえば、資産として1万クローネ(約20万円)以上の所持する人は取得できないなど厳しい規定があります)。

新卒者を対象として労働組合の失業保険支給額の例ですが、さまざまな条件によって金額が違い、毎年調整されますが、通常の失業保険支給金額の82%と規定されています。このようなしくみによって、仲間同士が生活を支援し合うという、共生社会の任務を労働運動が果たしています。