汚職が少ない国、第2位デンマーク

 

2018222日、ベルリンに本部を置く、非営利組織のトランスペアレンシー・インターナショナル Transparency International*が世界180カ国対象とした、2017年の腐敗認識指数Corruption Perceptions Index)を発表しました。腐敗認識指とは、その国の公務員や政治家が汚職をしているかどうか、汚職が少ないと点数が高くなり、汚職の多い国ほど点数が低くなるということでの指数です。世界で最も汚職が少ない国はニュージーランドでその次はデンマークで、汚職の少ない国上位23か国を見ますと下記表の通りです。

 

表.汚職が少ない国順(2017年)最高点100点で、点数が少ないほど汚職が多い国。

 

順位

国名

点数

順位

国名

点数

1

ニュージーランド

89

13

オーストラリア

香港

アイスランド

77

2

デンマーク

88

16

オーストリア

ベルギー

アメリカ合衆国

 

75

3

フィンランド

ノルウェー

スイス 

85

19

アイルランド

74

6

スウエーデン

シンガポール 

84

20

日本

73

8

カナダ

ルクセンブルク

オランダ

イギリス

82

21

エストニア

アラブ首長国連邦

71

12

ドイツ

81

23

フランス

70

 

 

 

上記の表で見る通り汚職が少ない国の1位がニュージーランド89点、2位デンマーク88点、3位フィンランド、ノルウェー、スイス 85点 6位スウエーデン、シンガポール 84点、因みに日本は20位で73点となっています。

 

* 1993年元世界銀行総長を務めたPeter Eigenが創立、本部はベルリンに置き、世界諸国100カ所以上に支部があり、デンマーク支部は1995年に開設された。設立目的は国民の汚職に対する認識を高め、汚職をなくすための支援活動をしている。腐敗認識指数はその国の公務員や政治家が賄賂を受け取るなど不正をしているかどうかを表し、不正の無い国ほど、点数が高い。

 

上記の数値で見る通り、北欧の5ヵ国は汚職(赤文字)が少ない国に位置していますが、デンマークでも汚職がありますので、100点満点が取れていません。それでは、公務員や政治家が汚職をする理由は何か、色々な理由があると思います。言えることは、汚職をする人の多くは、自分が得た権力や地位を利用し、少しでも多くの経済的または社会的に得をしたいというのが動機になっていると思います。広辞苑で「汚職」という意味を引きますと、「職権や地位を濫用して賄賂を取るなどの不正な行為をすること、職を汚すこと」と書いています。

 

「汚職」は「職を汚す」ということから、そこで働く人達の職場を良くしようとする労働意欲を阻害し、そんな汚れた場所で働きたくないということで辞める人を排出します。その結果職場の質の低下につながり、最終的には国家の経済成長の妨げにつながります。汚職が多い国ほど、貧困にあえぐ国民が多くなるのは、その国の権力を持つ者が不正を通し富を蓄え、国民への所得の再配分が出来ないことが大きな原因になっているのではないかとも思っています。

 

どんな罪悪を犯した人でも、生まれた時から罪悪人として生まれて来たわけではなく、また、どんなに恵まれて生まれて来た子供でも、生涯犯罪者にならないという保証はありません。育てられた環境、受けた教育によって、社会に貢献できる人になるかも知れないし、犯罪者になるかも知れません。「汚職」をする人たちの多くは、子供の時から社会に出るまでに過ごした家庭を含めた生育環境と受けた教育によって、本来の人として生きる倫理を身に付けていないためだと思うのです。つまり、何らの手段や能力で権力を得た者としての罪に対する認識に欠け、権力や地位を得た者の特権とし「何をしても許される」という甘えと思慮の無い生き方を身に付けているように思うのです。

 

北欧の国の汚職が少ない理由の背景には、子供の頃から学校教育のなかで人として生きるための倫理*教育を施行しているためだと思えます。*倫理とは道徳の模範となる原理(広辞苑引用)

 

デンマークの倫理教育導入の根底には、デンマークの憲法第4条「福音ルーテル教会はデンマークの人民教会で、国家が支援する」と規定され、それが基で長い間*、学校教育の中に、宗教教育や倫理教育を取り入れて来ています。それでは、デンマークの宗教教育や倫理教育で、どんなテーマの議論や話をしているのか、その例を書きます。*デンマークにルーテル教を国教として採り入れたのはクリスチャン三世で1536年のことです。

 

  1. 小学校1年から2年生:「人はどこから来たのか、死んだらどうなるのか」、「神とはだれか」、「良いことと悪いこと、喜びと悲しみ、共同社会、孤独、安全、人の違い」などをテーマにし、子供たちへの疑問に答えるように努める。

     

  2. 3年生~6年生:「何がよくて何が悪いのか」、「何が真実で何が嘘か」、「公平と不公平」、「富と貧困」、「信頼と不信」をテーマに子供たちの間で議論(話し合う)する。

     

  3. 7年生~10年生(デンマークには義務教育のなかで10年生まで就学できる制度がある):「なぜ人は生きるのか」、「幸福な生活とは」、「なぜ人は苦しむのか」、「なぜ戦争が起こるのか、」、「個人の責任とは」、「権力とは」、「自由とは」、「人権とは」などについて、生徒間の間で議論(話し合う)する。

 

デンマークで汚職が少ないのは、子供のころから、人としてあるべき倫理教育があり、また、大学でも学部とは関係なく哲学教育がカリキュラムに入っており、これらの教育を通し、国家の先に立つ者としてのプライドとモラルが、汚職する人の数を少なくしているのではないか、と思っています。また、デンマークで「汚職」が少ない裏には「汚職」をしなくても、生活できる所得を得ていること、「汚職」への罰則が厳しいこと、それと政治を含め「公務」に就いている者への国民からの監視が厳しいこと、これを支えているのはデンマークの権力に抑え込まれない報道関係者(ジャーナリスト)がいるためだと思います。

 

国の汚職が少ない国では国民間の信頼も高いと言われており、世界の国々の中で国民間の信頼が最も高い国は、デンマークと言われます。デンマークは、一人当たりの国民総生産額*は日本に比べ多いのすが、デンマークの国民総生産の25%は国民間の信頼が寄与していると書いた著書を読んだこともあります。

 

*2015年デンマークの一人当たりのGNP額は52,000ドルに対し日本のそれは32,500ドル。

 

国民の生産性を高めるためには、国民間の信頼が大事で、そのためには、権力を持った者は職務を利用し、不当な手段で自己の利益獲得をしないという、モラルを持つことが必要だということです。デンマークの労働市場は国外から「デンマークモデル」と呼ばれ、雇用条件を決めるのは就労者と雇用者の代表が決めることを基本にし、その条件を決めるため4年毎に労使交渉があります。今年2018年がその年に当たり、公務職に就く教員、看護師、警察など75万人の給与、就労時間数などの条件を決めるため、今年の1月から労使間協議をしています。交渉がまとまらない場合は、就労者側の代表はストライキの勧告を出し、一方雇用者側である国側はロックアウトの勧告を出します。職場がロックアウトした場合には、学校、病院、警察の業務が停止しますが、それでも、国民の多くは、労使交渉に政治の介入を望んでいないのは、就労者の国家運営における労働者の権利を認め、雇用する側の国に対しては正当な報酬を払う義務があるという認識*があるためだと思うのです。*2018322日の新聞(Jyllands posten)によると、公務員の給料を上げるべきかどうかへの世論調査で、64%の人たちが上げるべきだと回答。

 

筆者はデンマークに居住し50年過ぎましたが、デンマークの政治や行政に清潔間を感じるのは、政治や公務に就く人達が、権力や地位を濫用していないと見えるためです。(了)

 

 

 

2018322

 

デンマーク、ウアンホイにて