1.デンマークの風車の導入策と実績について
今から10年前の「風のがっこう便り2010年」において、デンマーク政府議会はデンマークの2020年における風力発電の発電量目標は対電力消費量に対し約50%ということについて記述しました。それを達成するためには陸上(陸内)に350万kWそして洋上に280万kW計630万kWの風力発電の設備を設置することを目標を掲げていました。それではその目標に対し実績はどうなったか。
図1、デンマークにおける風車の導入実績(単位MW=千kW).
【棒グラフ】紺色:陸上風車 空色:洋上風車 【折れ線グラフ】紺色:洋上風車累積推移 空色:陸上累積風車推移 黄色:そう設備量推移
(出典:Wind Denmark)
図1で見る通り、2020年時点におけるデンマークの風力発電導入実績量は6125MW(612.5万kW)で内訳は洋上1750MW、陸上4375MWとなっています。導入目標に対し実績を見ますと、陸上の風車設置量は目標より多く4375MWで洋上は目標より約100MW少なく1750MWになっています。そして総設備目標630万kWに対し実績は612.5万kWからしてその達成度は97.2%となっています。ただ2021年末には新たな洋上ウインドファーム60万5千kW*が起動することになっていますので、デンマークの政府・議会が計画した目標値に達することが決まっています。*詳細はHP:エネルギー島建設構想について、Krigers Flak洋上ウインドファーム
また風力発電による2000年の発電量については、162億7千万kWh.でデンマークの電力消費量(2019 )約350億kWhに対し、風力発電量は約47%という計算になります。そういうことで、デンマーク政府・議会が目標としていた2020年50%の目標には達しなかったのですが、10年計画の達成度として満足すべき数値と思います。因みにデンマークにおける一人当たりの風力発電設備量は数年前に1kWを越え、デンマークに次いで風力発電の導入量が多い国はドイツ(約700W)、スペイン(約500W)そしてイギリス(約360W)となっています。()内は各国における一人当たりの設備量
2. 日本の洋上ウインドファーム導入計画への私見について
2020年12月26日付け日本経済新聞に大きな見出しで「政府、グリーン成長戦略決定、として再生エネ5割超明記」と書いていました。そして脱炭素2050年に向けた政府計画として「40年までに洋上風力4500万キロワットに」と書いていました。この新聞報道に関し、筆者はこれから約20年後の2040年までに日本の洋上に4,500万kWの風力発電の設備を設置することが出来るのだろうか。恐らく、計画発表のみで終わってしまうのではないかと懸念し推測しています。
日本の風力発電導入量に関し、国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構が発表しているデータによりますと2017年3月末における累積量は350万2787kW、基数2,253基と書いていました。そして1989年までの累積から2016年3月末の導入量の推移については下記図2の通りです。
1989年までの累積1183 kW、7基
2016年3月末累積335万7544kW 2,199基。
上記図2で見る通り、日本における風力発電の導入は毎年増えてはいますが、1989年から2017年末までの約28年間に設置した風力発電量は約350万kW
、この先2040年までの20年間に洋上ウインドファームとして約10倍以上に当たる4500万kWを建設するという計画は①風車の供給、②建設に必要な人材の養成③建設費確保などから見て、実現出来る可能性は無理だと見ています。
この中で:
① について、日本は風力発電機の製造販売から撤退しました。そういうことで4500万kW風力発電機をどこから購入しようとしているのか、国外メーカーの風車をあてにした計画では無理だと思うためです。
② について、洋上ウインドファームの建設に関しデンマークは今から30年前の1991年に450kWの風車を11基洋上に設置しそれから今年で30年になりますが、それでも、上記図1で記述しましたが、この間の設置量は170万kWです。しかもデンマークには風力発電機メーカーが独自に洋上ウインドファームの建設をし、そのノウハウを持った人材がたくさんいます。この間デンマークの工科大学に風力発電学科も設けました。日本の大学あるいは企業の中に風力発電しかも洋上ウインドファーム建設に携わることが出来る人材の教育や育成が出来ているのだろうか、という疑問があるためです。
③ について、洋上ウインドファームの建設工事には大きなお金がかかります。その理由は陸上に風車を建てるのに比べ事業内容が大幅に増え、その費用がかさばるためです。
・洋上ウインドファームの主な事業内容について:
a. 開発と許認可費(環境調査、海岸線調査、気象観測調査、海底調査、工事関連調査、社会受け入れ調査など)
b. 風力発電機調達費(機種別のナセル、ローター、タワーなど)
c. その他の設備費(海底ケーブル、風車の基礎部、洋上変電所、陸上変電所など)
d. 工事費(海底ケーブル敷設、基礎工事、港湾施設、船舶借料、風車設置など)
e. 運転とサービス・メンテ(運転・サービスメンテなど)
上記事業内容を総括した費用はヨーロッパの海域において50万kWの設備で約kW当たり日本円で40万円という報告書をみたことがあります。しかも、この費用には解体及び撤去費用は含まれていません。
日本にはデンマークのように風力発電機メーカーが無く、洋上ウインドファーム建設に関するノウハウを持った業者が無く(そう思っていますが間違いであることを祈ってのこと)洋上ウインドファームの建設コストはヨーロッパに比べ高くなると思っています。どれだけ高くなるか。しかも日本の洋上の風力エネルギー量は例えばデンマークの北海に比べ、少ないと見ています(データをみたわけではないのですが)*。といういうことは投資額に対し、得られる風力発電量は少ないと見るべきだと思っています。その結果、洋上ウインドファームの発電価格は高額になり、国民負担が増えることになると懸念しています。そういうことから日本政府が目標に掲げた2040年に向けた洋上ウインドファーム4500万kWは無理な計画と見ています。(筆者の推測が間違っていることを願っています)。
* デンマークの洋上ウインドファームにおける設備利用率(設備利用率=発電量/設備量×年間時間数)を見ますと、洋上13カ所に建てた風車計120万kWの設備利用率は30%から45%となっている。
筆者は思うに、洋上ウインドファームの建設計画を立てる前に日本の国内資源を利用するエネルギー政策があって良いのではないかと思っています。その中には、二酸化炭素が1リットル当たり2.5㎏も排出する灯油の節減策、間伐材や廃棄物の燃料化、家畜の糞尿や有機廃棄物からのバイオガス生産への奨励、発電所のコージェネ化、その他にも強風地帯における市民参加を義務付けた陸上風力発電の増設と送電線の強化を計り、特に農村地帯おける動力用として使える三相の400ボルトの配電策を進める方が、日本の二酸化炭素削減策としてまた次世代への贈り物として実現性のある施策と思っています。日本の学校教育による違いか日本社会では高度な知識や技術が優遇されその結果として、「実証試験」という名目のプロジェクトに多くの税金が使われているようです。その結果税金が活かされないまま、プロジェクトが頓挫するか、税金の支援を受けて事業が継続するという結果が生れているように見受けられます。そんなことから日本の政府が立てた洋上ウインドファーム導入策も日本の財政に大きな負担になるような気がしています。どのような結果になるかこの先日本の洋上ウインドファーム導入策動向そして日本の財政との関係について、見ていきたいと思っています。
2021年2月28日
ケンジ ステファン スズキ