世界中がコロナウイルスの感染問題で人の移動が抑制され、経済的に大きな被害が出ています。今後被害状況は発表されてくると思いますが、コロナウイルスの感染問題が収束されたとしても、コロナウイルスの感染問題が発生する前の経済状態に戻るには多くの時間がかかるのでは無いか推察しています。
私は今年3月5日から30日の日程で(内一週間はフィリピン訪問を入れた)、訪日しましたが、コロナウイルスの感染問題の発生でフィリピン訪問は取り消し、30日の帰国便がキャンセルとなりました。結果帰国便が見つかるまでの約3ヵ月、実家がある岩手県を訪ね、妹夫妻が住む千葉県を訪問そして約2ヵ月間滋賀県の高島市に滞在させてもらいました。
1.滋賀県高島市での廃棄物を処理について:
滞在中に見聞させて頂いた中に、日本とデンマークの仕組みや制度に大きな違いを感じました。
その一つは廃棄物処理の制度です。滋賀県高島市の住民に課せられた廃棄物処理は、住民は市から配布された「廃棄物カレンダー」に基づき、廃棄物別に捨てられる日と時間が規定されていたことでした。デンマークでは考えられないほど細かく規定された「廃棄物カレンダー」を市民が受け入れていることに感心しました。
また同市に滞在している間、燃えるごみとして収集しない段ボール、瀬戸物、金物、家具などの廃棄物を市の清掃センターに運び処分する機会がありました。
驚いたことは、清掃センターまでの距離です。車に廃棄物を詰め込み市内から遠く離れた山奥の清掃センターまで捨てに行ってきましたが、なぜ清掃センターを市内の中に作らなかったのか、市内に清掃センター(デンマークのリサイクルセンターに近い施設)であれば、ガソリン代も節約できるし、廃棄物を捨てるための時間も節約できると思いました。
市が収集する家庭ごみは税金で賄っているとのことですが、清掃センターに持ち込む廃棄物の処分代は有料となっていました。それと廃棄物を分けて捨てるためにスタッフが付いていたことです。清掃センターでは廃棄物を分けて捨てるためにスタッフが付き添っていたこと、また捨てる物毎にコンクリートブロックで仕切られておりましたが、もしコンテナーを使えば、就労者の健康保全(ほこりの中で仕事をしているのを見て思ったこと)にもなり、廃棄物の移動も簡単にできるのに、なぜコンテナーを利用しないのか、と思いました。また、古いテレビの廃棄処分をする機会がありましたが、デンマークでは考えられない程、面倒な手続きが必要だということが解りました。一台の古いテレビを捨てるために、まず最初、郵便局に行き、捨てるためのテレビのメーカーとサイズ(何インチ)を伝え、料金を払い、郵便局から支払った証明書を頂き、10キロメートル以上も離れた隣町まで運びやっと捨てることが出来たことです。日本では廃棄物の不法投棄が多いと聞きましたが、その原因は捨てる場所が遠くにあること、そして有料であることも原因の一つになっているのではないかと思いました。
日本の家庭ごみの処理代は税金で賄われているようですが、デンマークでは、廃棄物の処理代を受益者負担とし、不動産税と共に年に一度、市民が支払っていいます。
日本のように、消費者が勝手に買い込んだ物を捨てるための処分代を税金で賄うということにも大きな疑問を感じました。廃棄物の処分代は税金で賄うものではなく捨てる人が負担することだと思いました。そんなことから廃棄物の処分を有料化することで、廃棄物の減量化にも繋なげ、それで浮いた税金は別な用途に使えるのでは無いかと思っているためです。廃棄物の処理代を受益者負担としている国はデンマーク以外にもあると思いますので、その仕組みを取り入れることだと思いました。
それと、野焼きが禁止されているのにも関わらず、野焼きをしている人を見かけました。
2.デンマークの廃棄物の取り扱いと処理は世界のトップ:
2020年6月4日デンマークの全国紙ユトランドポストによると、デンマークは・環境施策指数 (EPI: Environmental Performance Index 注)で180カ国中大気の質と廃物処理策を含めてトップとなったと報道しました。報道によれば、アメリカのエール大学とコロンビア大学が2年毎に発表している世界の国々の11項目からなる環境施策指数を基に各国で採られている環境策を評価しその順位を発表しているとのことです。それによると前述した通りデンマークの大気の質を守る政策と、廃棄物の処理政策に対する評価は他の国に比べて「卓越」(Excels)していると評価し180カ国のトップになった、と報道しました。
私は同報告書を拝読していませんので評価の根拠が明らかではありません。言えることはアメリカの大学がデンマークの環境政策は世界のトップと評価したことは、デンマークの環境エネルギー政策を見聞している私には理解でき、私なりにその理由を記述したいと思っています。
注 EPI https://epi.yale.edu/
大気の質を守るための政策について
デンマークはオイルショックの教訓を活かし、度重なるエネルギー政策の導入を基に国内資源の活用に努め、電力供給では風力発電、バイオガス・バイオマス発電の導入に力を入れてきました。その結果、デンマークの風力発電の電力消費に占める割合は2020年に入り約60%になり*、その反面化石燃料での火力発電所の割合を減らしました。データで見ますと、デンマークの発電による二酸化炭素の排出量はキロワット時当たり、1990年の1000グラムから2018年194グラムにしたこと、さらに2019年には135グラムに削減したことです。風力発電の導入を進めた結果として、二酸化炭素の排出以外にも、二酸化硫黄、燃え殻、塵などの排出物を削減したことです。このことで大気汚染の削減に繋げているということです。デンマークの電力消費量の約60パーセントが風力発電によって賄われているということは、それだけ大気汚染が少なくて済んだということです。*デンマークの風力発電の電力消費量に占める比率:2020年1月65.5%、2月65.0%、3月48.0%。1月~3月平均59.5%。
デンマークの風力発電産業は大気汚染への貢献だけでは無く、社会経済面においても大きな役割を果たしているとデンマークの風力発電協会の機関が報道しました。同機関紙によりますと*デンマークの風力発電の社会・経済面で果たした役割について2018年の数値では、まず最初に雇用面においては2016年の常勤労働時間数**にして85,000人分の雇用を確保し、2018年のそれは94,000人分の雇用を確保したと報じていました。*Wind Denmark 2020年6月3日付け**デンマークの常勤労働時間数は年1924時間
さらに同紙は、2018年国民総生産に占める風力発電産業の貢献において、風力発電産業の国民総生産額に占める割合は4%に当たる910億クローネ(約1.6兆円)になったこと、風力発電業界の納税額は290億クローネ(約5千億円)となったと伝えていました。この他風力発電産業に従事する人たちが居住する市町村への所得税も当然増え、例えば、世界最大の風力発電機メーカーVestas Wind System本社が所在するデンマークの第二の都市オーフス市(Aarhus、人口数約34万人)においては常勤労働時間換算で約3万1千人が風力発電業界に就労し、その人たちの納税額は2016年の1億1100万クローネ(約19億円)から2018年のそれは1億3800万クローンネ(約24億円)に増えたと、報じていました。その他の風力発電事業を持つ市町村においても、オーフス市と同様納税額が増えていると報じていました。
デンマークの風力発電産業は国民に汚染の無い電力を供給し、輸出と雇用を通し国と地方財政に大きな貢献をしていることがこの数値から見ることができます。このことを可能にしている裏にはデンマークのオイルショックの教訓を活かした度重なる一環したエネルギー施策があると思っています。
風力発電の導入政策以外でデンマークが力を入れているエネルギー政策にはバイオガスの導入策、廃棄物を含めたバイオマス利用とそして太陽熱の利用そしてまた熱ポンプの導入策です。これらいずれも化石燃料削減を目的としたエネルギー供給政策で、大気汚染削減を兼ねた環境政策でもあります。
デンマークの廃棄物処理について
アメリカの大学がデンマークの廃棄物処理制度は他の国に比べ「卓越」していると評価し環境施策指数で世界のトップにランク付けしました。
今日のデンマークの廃棄物処理制度について、デンマーク政府・議会は1990年から廃棄物を「資源」として規定し、廃棄物のリサイクルを政策の柱にしてきました。
例えば「環境保護法に関する改正法」(1993年6月30日付け法第477号)の9条a.において容器・材料・製品など廃棄物のリサイクルを明確し、この法律を施行するために導入された制度が「廃棄物と再利用に関する情報制度」です。この情報制度導入によって、企業は廃棄物のリサイクル量、エネルギー用途としての焼却量、埋め立て量を環境・エネルギー省に登録、報告する義務を負いました。
一方一般家庭から出る廃棄物の処理については、「廃棄物省令、環境省省令第131号、1993年3月21日付け」によって各市町村は「廃棄物処理に関する計画書」の作成が義務つけられました。この計画書では市町村が出す廃棄物の現状と見通しを記載することになっています。この制度は導入されて間もなく30年になろうとしている今日、同制度は継続されています。
2016年におけるデンマークの廃棄物の総量は約1167万トンで内訳は産業廃棄物約822万トン、家庭から出て廃棄物約345万トンで、人口一人当たりの排出量は約2トン(日本は産業廃棄物を加えると一人当たり約3.4トン)となっています。
アメリカの大学が称賛するデンマークの廃棄物処理制度については、私のホームページの「ゴミは厄介者か? デンマークのゴミ処理に学ぶ」滋賀県高島市での講演原稿を掲載していますので、時間があった時、あるいは興味のある人は眺めて頂ければ嬉しいです。
そして日本は?
日本の廃棄物処理の中で可燃ごみの大半は、小規模の焼却施設で石油を使って燃やしているという話を聞きましたが、世界で地球温暖化の原因となる二酸化炭素の排出量を削減しなければならないことが語られている中、デンマークが導入しているようなコージェネ発電所になる大きな焼却設備を建設し、お湯は大量に熱を必要とする場所に供給し電力は系統連系し送電する仕組みを取り入れることを考えるべきではないだろうか。何れにしても可燃廃棄物は燃料とし、いたるところに伐採されて放置されている木材と共に燃料化するための仕組みを導入し、現世代だけで無く、次世代を担う人たちのためにも、役立てることではないだろうか。
コロナウイルスの感染問題で予定通りの帰国できなくなり、長期滞在が余儀なくされた中で滋賀県高島市に約2ヵ月滞在しました。滞在中に見聞した廃棄物処理に関し、持続可能な高島市を目指す手段の一つとして、デンマークが採り入れた廃棄物の利用策があるのではないかと思いました。(了)
2020年6月8日
デンマークウアンホイにて
ケンジ ステファン スズキ