1. デンマークにおけるコロナ感染状況とその対策について
2021年4月16 日付け、デンマークのコロナ感染者の累積数は241,007人で、死者数の累積は2452人に達しました。また、4月17日時点での入院者数は185人、内集中管理患者数36人、人工呼吸器患者30人となっています。デンマークにおける感染者数の動向を見ますと、一日当たりの感染者確認数は700人前後の増えたり減ったりですが、4月に入ってから感染者数は減って来ています。その背景には、感染を防ぐため、学校閉鎖を始めとした大規模な住民の行動制限を導入したこと、昨年の12月27日からワクチンの接種を始めたことです。デンマーク政府議会は感染者数の動向をみながら、学校を含め各種業界の開店制限また住民の集会人数の制限など活動を規制してきました。感染者数が減って来たことから、4月14日デンマークの政府与野党間において、活動制限を緩和することを決めました。その緩和策では、以前に決めていた、レストラン、飲み屋、カフェの開店日の5月6日を繰り上げ、4月21日から、予約とコロナパスの提示を条件に開店が出来ることなった他、会合の人数は屋内の場合5人から10人に増やし、屋外の場合は10人から50人まで、コロナパス無しで集合出来ることを決めました。
デンマークにおける最低1回ワクチンの接種を受けた人の数は4月15日時点で百万人を超え、また2回の接種を受け、接種を終えた人の数は人口数約584万人の8.4%に当たる488,202人となっています。なお、デンマークでコロナワクチンの中の一つアストラゼネカ(AstraZeneca )の接種を受けた人の数は約15万人居ましたが、その接種者の中に血栓などの副作用で死亡者が出たため(4万人当たり1名の死者)、デンマーク政府議会は、先月中旬、同ワクチンの接種を4月15日まで中止することを決めていました。そして今月(4月)14日、同ワクチンの接種を止めることを決めました(4月18日現在EU諸国内でアストラゼネカのワクチン接種を止めた国はデンマークのみ)。
このことで、デンマークで接種をするワクチンはComirnaty (Pfizer/Biontech) , Moderna, そしてJohnson & Johnsonです。因みにデンマークではワクチンカレンダー(HP3月28日参照のこと)に合わせ筆者の場合は4月7日に一回目のワクチン接種を受け、二回目は3週間後の4月28日となっています。受けたワクチンの種類はComirnaty (Pfizer/Biontech)*でした(2回目も同じ物)。
* 2021年Pfizer 製薬会社のコロナワクチンの売上高は930億クローネ(約1.7兆円)を見込んでいるいると語られています。また同社の2021年のおける納品量に関しては、2021年5月末までにアメリカ向け2億服(dose)、そして納品期日は決まっていませんが、EU27諸国に3億服を納品することになっていると語られています。そういうことでコロナワクチンの販売額を含めた2021年におけるPfizer 製薬会社の売上高は2020年の2,550億クローネから2021年のそれは3,700億クローネ(約6.7兆円)と約45%の伸びになると推測されています。
2. コロナ感染下での国家経済について
コロナ感染による、世界の国々で国家経済の影響が懸念されてきています。
昨年、デンマーク統計局の推定では2020年の国民総生産高*は対2019年比でマイナス3.7%と発表していました。これに関し、今年3月31日、デンマーク統計局は予想していた数値よりも少なくマイナス2.7%位で収まると発表しました。そして最近のデンマーク統計の発表による数値では2020年の国民総生産高は2019年に比べ僅かながら増えているように見えました。正確な数値は今後出てくると思いますが、筆者はデンマーク政府が懸念していた国民総生産の大きな落ち込みはないと見ています。
* デンマークの国民総生産高(GNP名目):2018年22,460 億クローネ、2019年23,180億クローネ、2020年 23,2360億クローネ(対2019年比で約480億クローネ多い)。2020年デンマークの一人当たりのGNPは世界で6番目に多く60,494 ドル(日本:40,146ドル)。
コロナ感染によるデンマークの国民総生産高への影響は他の国々に比べて多いか、少ないか、デンマーク銀行の数値を基に3月31に公開された数値をみますと以下図1の通りです。
図1で見ると、2020年における国民総生産高の伸び率(対2019年比)において、デンマークが最も多く*マイナス2.7%、その次がフィンランド、マイナス2.8%、スウエーデンマイナス3%、そしてノールウェーマイナス3.1%となっています。
* 伸び率がマイナスなので落ち込み率と解釈した方が適切かも知れません。
北欧4カ国の2020年における国民総生産高の落ち込み率はスペイン(10.8%)や、イギリス(9.8%)に比べ少なく、また、欧州の経済大国との呼ばれているドイツ(マイナス5.3%)に比べても少ないのは何故か。その理由の一つは北欧諸国の国民総生産高に占める観光やホテル業またレストラン業界割合がもともと少なく、コロナ感染で国内外への移動が制限されましたが、国民総生産額への影響は少なかったこと、また、デンマークにおいては、コロナ感染による建設業界、製造業界への閉鎖が無かったこと、などが国民総生産額の落ち込みを抑えた理由になっています。
デンマークにおいては、国内外旅行が制限されたことやレストランなど飲食店にに行けなかった分、住宅売買や整備そして別荘への投資にお金が流れたため不動産業界、大工・左官・下水道・工務店業務が増えこと、さらにヨットや大型のボートへの投資が増えたことなどが、国民総生産額の落ち込みを抑えた理由になっています。デンマークの人たちは、日本の親に比べ、子ども達への教育費を貯める必要が無く、高齢者においては生活費となる年金が国から出てくることなどで、将来へのお金のやりくりに心配が無く、このことでも国民総生産高の落ち込みが抑えられている理由だと思っています。また、これから先、デンマークの国民総生産の動向に関しては、2021年年始から始めた、国家公務員と地方公務員約90万人の2022年から2024年の賃金を含めた労使交渉の結果、約5.02%の引き上げが決ったことで、デンマークの国民総生産高の落ち込みが抑えられるのではないとかと筆者は推測しています。
図1北欧諸国の経済は懸念していたよりも良かった。
3.デンマークの国民総生産額について
デンマークの国家の強さは、食糧を自給しエネルギーの約8割は自給出来ていることです。デンマークの国民総生産を支えている産業界の中で、経済の景気に殆ど左右されない、例えば肉や酪農製品の国内外供給している農業があること*、また、国内資源を利用した、例えば、風力発電、太陽光発電の導入による安価な電力供給があること、また、家畜の糞尿や有機廃棄物を活用し採り出したバイオガスやバイオマス利用を通したコージェネ(熱電供給)策などで、安定したエネルギー供給政策ができていること、そのことで国外の投資を呼び込み、輸出産業につなげ外貨の獲得と雇用の確保できている。そのことなどで結果的にデンマークの国民総生産につなげている。
*生産量の4分の3が輸出、デンマークの食糧の貿易収支ではデンマークの出超で年約570億クローネ(約1兆円)となっている。
図2.北ヨーロッパにおける発電源別に見たMWh当たりの発電価格:単価はユーロ
図2.は北ヨーロッパにおける発電源別に見た価格ですが、見る通り発電価格で最も安いのは陸内に設置した風力発電です。風力発電価格が安いのは、風力発電機メーカーの大半はデンマークに所在し、地元の風力発電機としてデンマークでは国と国民が一緒になり、風力発電産業を育てているため各種の策を採り入れてきました。その結果、一人当たり風力発電設備量でデンマークが世界最大となり、その量は約1kW強*になりました。
*2021年2月時点でのデンマークの風力発電設備量:6,177MW、人口数約584万人
風力発電の運営管理に関するデンマークの多くのノウハウと安いサービス・メンテナンスがまた風力発電産業の成長にも繋がっているように思います。この中には例えば、国が資本金の50.01%を所有するØrsted* の例で見ると、同社は洋上ウインドファームの建設におけるリーダー的役割を果たし、既に1500基以上の風車を洋上に設置していますが、そのことで例えば化石燃料での発電設備への投資を減らし、風力発電価格の引き下げに繋げているように思えます。
* Ørstedの従業員数(2020年)約6500人、売上高678億クローネ(約1.2兆円)法人税納税額(2019年)50億クローネ(約900億円)
図3.デンマークの風力発電業界とエネルギー産業界の輸出額推移(2006年~2019年)
黒の棒グラフ:風力発電業界 明るい緑の部分:エネルギー産業界
図3はデンマークの風力発電業界とエネルギー業界(バイオガス、地域暖房など)における2006年から2019年の輸出額の推移です。この間における風力発電業界の輸出額13,183億クローネ(約23.7兆円)となり、2015年から2019年におけるエネルギー産業界の輸出総額は1,535億クローネ(約2.8兆円)となっています。また、デンマークの風力発電産業界における雇用者数約31,000人となっていますが、デンマークが採ったエネルギー政策はコロナの感染問題とは関係なく、国内だけではなく、輸出産業として国家経済に寄与していることが言えると思います。
つまり、デンマークの産業構造から見えることは、人が生きるために必要な食糧とエネルギーを確保している限り、国家経済の安定が図れ、その結果国民生活が守られる、ということかも知れません。
デンマーク政府与野党間で、コロナ感染問題を早く収束するため住民の行動制限をし、ワクチン接種を早々と始めた理由は、国民の国家経済への関与を出来るだけ早め、通常の経済活動に戻すこと、が大きな理由になっていると思っています。
4. 日本の持続可能な国民生活について
日本の国土は太平洋と日本海に囲まれ温暖で特に農作物を生産するための自然条件が整っているのではないかと思っています。そんなことで筆者が育った岩手の生家では、小麦、大豆その他野菜関係はほぼ自給していました。それから半世紀が過ぎて今、生家含め、周辺農家で小麦や大豆を作って農家が見当たらなくなっています。2014年統計数値によりますと、日本は世界最大の食糧輸入国となり、この中でトウモロコシ、小麦、大豆、牛肉、豚肉の4品目だけで見た輸入額は約1.6兆円となっています。また、他に水産物の輸入額は約1.7兆円になっています。つまり日本では生きるために必要な食べ物の多くは国外に依存していることが言えると思います。
また、国民生活に必要はエネルギー部門において、2019年の数値で見ますと、日本の石炭の輸入額は世界最大で、①日本約232億ドル、②中国約220億ドル、③インド約206億ドルとなっており、また、天然ガスの輸入量においても日本は最大の輸入国*となっています。
*①日本約400億ドル、②ドイツ約303億ドル、③中国約302億ドル
上記の二つの数値から見ても、日本では国民生活の存続に必要な食糧とエネルギーが自給出来ていないことが言えます。その結果かも知れませんが、日本の貿易収支の推移、2010年から2019年の10年間、の累積額で見ますと、輸出総額約722兆円、輸入額約748兆円となり、差し引き26兆円の入超となっています。その結果として極論ですが、日本における国民生活は赤字財政を組まない限り、維持できない所にあると思っています。改善するためにはどうしたら良いのか、国外に住む者が日本の国政に口を出すことはいけないと思いながらも、反論と批判を受けるけることを覚悟し、記述させて頂ます。
日本を外から観て思うことは、国家を統治する人たちと統治を受けている人たちの間に信頼感が無いように思えます。その結果、一つの例として日本の電力供給において約1兆kWhを発電しデンマークに比べ一人当たりの電力消費量が多いにもかかわらず*、その電力をどうして供給するか国民間において議論することも無く、また意見の同意は見られないためか、国内資源を活用した電力供給の自給がなかなか進まないでいるように見ています。この中には例えば自然環境保護団体や動物愛護会による、自然界破壊という名目での風力発電や太陽光発電導入反対、放射能公害を理由とした原子力発電導入反対、公害物資の放出を理由にごみ発電所導入反対など、反対する一方で代案がなく、また市民の反対を受けたエネルギー導入策に対し、行政や政治も国家運営への責任が持てないためか、国土利用を通したエネルギー自給への政策が出来ないでいる。そのことで日本の電力の自給化が進まない結果を生み、また国土利用と開発も進まず、野生の動物の繁殖による、農作物への被害を生み、結果として、耕作放置の