欧州の環境・エネルギー政策における風力発電の導入などについて

講演総括原稿
「第12回目全国風サミットinたはら」
日時2005年5月20日14時20分~15時00分
場所:田原文化会館アリーナ

①私とデンマークとのかかわりについて:
1967年4月デンマークの社会福祉の基礎となる「所得の再分配」について学ぶためデンマークに入国しました。コペンハーゲン大学政治経済学部2年間就学後、在デンマーク日本国大使館に勤務しデンマークに居住することにしました。1979年デンマーク国籍を取得し農場経営に入りました。農場経営の傍ら商業大学で会計学、特にデンマーク税法を学び、大学卒業とともにリサーチ会社を設立しました。風力発電の対日輸出の機会を得ると共に、デンマークの環境・エネルギー政策の情報収集活動に入りました。1997年デンマークの環境・エネルギー政策の普及をはかるため研修センター「風のがっこう」を開設しました。日本との関係では「風のがっこう京都」と「風のがっこう栃木」への業務支援をしています。


②なぜ、国として環境・エネルギーに取り組むか:
国が環境・エネルギーに取り組む理由は、人類始め動植物が生存するために最低必要な条件を守り確保するためです。具体的にいえば、人類は生まれてから死ぬまで大気(酸素)と水、食料とエネルギーを必要とします。国を維持するためには大気と水を汚染から守り、食料とエネルギーの安全供給が必要です。デンマークが風力発電、バイオガス、あるいはその他の再生可能エネルギーの普及に取り組む背景は、豊かな国民の生活を維持するために必要と見ているためです。例えば、デンマークにおける風力発電は大気汚染を避け、国内資源で電力供給をすることで安全供給を図り、また風力発電産業を起すことで雇用の確保と外貨獲得の手段にしていることです。


③欧州の風力発電事業の導入経過・今後の展望:
1973年のオイルショックの経験を活かし、国内エネルギー資源の活用として風力発電導入の先導を切ったのはデンマークです。その後1990年代に入り、「地球温暖化問題」語られ、1997年地球温暖化防止会議が京都で開かれ、「京都議定書」が締結されました。
2005年2月16日に京都議定書が発効されました。これにより、二酸化炭素の量を2008年から2012年までに1990年の水準に比べて、世界全体で5.2%削減するよう義務を負いました。EU諸国全体における二酸化炭素削減量は8パーセントです。その内、削減目標の多い国は、ルクセンブルグ28%、デンマーク21%、ドイツ21%、オーストリア13%、イギリス12.5%、ベルギー7.5%などになっています。一方増やすことが出来る国はポルトガル27%、ギリシャ25%、スペイン15%、アイルランド13%となっています。二酸化炭素削減目標を達成する手段として、デンマークやドイツが風力発電の導入に力を入れて来たわけです。その後欧州ではスペインが風力発電に力を入れてきていますが、スペインの風力発電導入の背景には二酸化炭素の削減よりも雇用確保が見られます。デンマークは長い間風力発電からの系統連系義務と売電価格を設定してきましたが、最低価格制度に切り替えため、2004年における新規の設置はほぼゼロになっています。欧州における風力発電が伸びている国は全て売電価格を固定している国々です

今後の展望、デンマークやドイツにおいては、陸内に設置してある風力発電のRePowerが進み、一方風力発電の設置場所は洋上に移行していくと見ています。欧州の洋上ウインドファームについて見ますと、表2.の通りです。

 

④風力発電による電力供給量
a. デンマークの実情:
世界で風力発電による電力供給量が最も多いのはデンマークです。デンマークの総電力消費量の18.9%が風力発電でカバーされています。風力発電による電力供給は地域ごとによって異なり、最も多い場所で34.1%が風力発電によって賄われた計算になっています(写真4.。デンマークの地図)。

デンマークの風力発電は2005年1月最大出力を記録しました。2005年1月の電力消費量3309GWhに対し風力発電1,075GWh、よって風力発電の占める割合は32.5%になっています。
b.ドイツにおける風力発電
2004年末現在、ドイツでは16,543基、出力16,628.75MWの風力発電が設置されました。
デンマークと同様、ドイツにおいても各州によって総電力消費量に占める風力発電の割合が違います。最も多いのはスレスビーホレスタイン州で電力消費量の33.43%が風力発電の電気で賄われています。 ドイツの各州別にみた風力発電の占める割合についてみます。

 

⑤ 欧州の風力発電導入国の見通し;
今後、欧州諸国の中で風力発電導入が進む国としては、スペインやドイツはもとより、イタリア、UK. オーストリア、そしてフランスが上げられると思います。特にフランスにおける風力発電についての最新情報によると(DEWI,2005年2月号)フランスが導入した2004年末の風力発電量は405MWで対前年比70%との伸びとなっています。フランスにおける風力発電の導入は新しく1997年頃から始まっていますが、特に2000年に入ってから導入が著しく伸びています。2004年末におけるフランスの再生可能エネルギー源の系統連系の申請量は3823MWでこの内95%は風力発電となっています。ということは今後フランスにおける風力発電は急速に増えていく可能性が十分にあると言えます。


⑥ 風力発電事業のあり方:
風力発電事業は国内資源の利用と電力エネルギーの自給促進という課題への挑戦です。また、風力発電事業を育てるためには一部の投資家に任せるのではなく、出来る限り多くの人達が参加出来る仕組みが必要だと思います。その為には国の政策に系統連系の義務化、長期にわたる売電価格の保障が必要です。デンマーク始めドイツが風力発電導入先進国になった後ろには、国のエネルギー政策の中に風力発電が育つために必要な施策をとったためだと思います。

 

⑦日本の風力発電と地域づくりへのコメント

1993年、最初のデンマークの風力発電が石川県の松任市に設置されてから、既に10年を過ぎ、上記表1で見る通り、日本の風力発電所有量は世界で8番目になっています。この間、日本の風力発電の導入の基本方針は変わっていないように見えます。補助金を見込んだ大型ウインドファームの建設が進む一方では、風力発電のトラブルが続出し、それに対するサービス・メンテナンス要員の不足から稼動しないていない風力発電機も少なからずあると聞こえてきています。またメンテ費用がかさみ、採算が取れていない風力発電所もかなりあると聞こえています。 風力発電が育つ仕組みとして系統連系の義務化の問題、採算が取れるような売電価格の設定、風力資源は地元のエネルギー資源として地元の人達に残せる法的措置、建設工事の簡素化等欧州諸国の例を参考にしながら、日本の風力発電が育つ基礎づくりを、関係者の間で検討してみることを始めてはどうであろうか。なぜならば、デンマークと比べても日本にはまだまだ、風力発電を設置する場所はあると見るためです。欧州が風力発電を導入している理由には、環境コストを含めると発電価格が最も安い電気となっていることを忘れてはならないと思います。ましては、原子力発電に依存する電力供給体制は、スウエーデンのバースベック発電所の例に見る通り、解体費用に膨大なお金がかかること、百万年単位の廃棄物保存を期間を必要とすることを考えると、日本の原子力発電をベースにした電力供給体制は、将来に向け変えていく必要があると思えます。

 

⑧風力発電と鳥への被害

それとまた、風力発電における環境問題の中で、話題に出ていることは「風力発電と鳥への被害」がありますが下記のデータで見る通り、人間が作ったもので鳥への被害が最も少ないのは風力発電だということです。勿論風力発電といえども鳥への被害はゼロではありませんが、風力発電は人類が生きる上で最も大事な電力供給をする設備から考え、自動車やトラックに比べ重要度の面では高く位置ずけられるべきで、風力発電による鳥の被害を語る前に自動車やトラックで殺されている鳥の被害について関係者は真剣に考えるべきではないでしょうか。


参考資料:風車と鳥の問題について (出所:nr.34.december 2003, Vindformation)
アメリカのデータによると、人間が作ったもので最も鳥に被害を与えていないのは風力発電であるとしている。以下例:
アメリカのおける鳥の被害(年間、単位:百万羽)
・ 電線・・・・・・・・・・・・130-174
・ 自動車・トラック・・・・・・60-80
・ 建物・・・・・・・・・・・・100-1,000
・ 通信用鉄塔・・・・・・・・・40-50
・ 農業の消毒剤・・・・・・・・ 67
・ 風力発電・・・・・・・・・・0.0064
詳細は: www.awea.org 参照
上記で見る通り、アメリカにおける鳥の被害が最も多いのは建物で年間に1億から10億羽の鳥が死んでいる。電線においては1億3000万羽から1億7400万羽の鳥が死んでいる。自動車やトラックで死ぬ鳥の数は年間6000万羽から8000万羽になっている。 人間の建造物で鳥への被害が最も少ないのは風力発電である。     

                                             以上