市民参加を義務づけたデンマークのエネルギー政策とその国情

日本科学者会議第22回総合学術研究集会(2018年12月7~9日)琉球大学にて

分科会ⅢC2「パリ協定を越えて」特別講演サマリー

1.はじめに:
2016年末のデンマークのエネルギー消費量の実績は743ペタジュールで、内訳を見ると、石油製品の占める割合は37%、再生可能エネルギー29%、天然ガス16%、石炭及びコークス11%、廃棄物2%、純電力輸入2%となっている。この数値を第一次オイルショック時(1973年)と比べてみるとエネルギー消費量は675ぺタジュールで、内訳は石油製品83%、電力9%、石炭とコースク約4%、ガス約2%、バイオマス約0.1%となっていた。これら二つの数値から、オイルショック後、デンマークは石油製品への依存度を半減させたことが判る。本稿ではオイルショック後から今日に至るデンマークのエネルギー政策、特に再生可能エネルギー資源の活用に関し記述する。


2.デンマークの国情と国内資源の活用に向けたエネルギー政策について
デンマークの人口は毎年増え続け、2018年1月時点での人口は約580万人である。国土は平坦で、国土の約60%が主に穀類や草地など家畜用飼料用として耕作され、カロリーベースで見た食料供給量は1,500万人分と言われている。デンマークは長年「ゆりかごから墓場まで」の福祉制度を導入し、教育費や医療費は税金で賄う「共生社会」を維持してきた。その中で国民生活に欠かせない食料を確保し、飲料水を汚染から守る施策を国策とし、またオイルショックの教訓を活かし、国内のエネルギー資源の活用に努めている。国内資源の中で北海油田があるが、掘り続けた結果、埋蔵量は少なくなっている。資源の活用では風力発電、太陽熱利用と太陽光発電、家畜の糞尿と有機廃棄物を利用したバイオガス生産、麦わらやウッドチップ及び可燃廃棄物を利用したコージェネ発電そして、地熱利用がある。
第一次オイルショック(1973年)時点におけるエネルギー自給率は僅か1.8%であった。1976年5月、政府は長期エネルギー計画『エネルギー計画1976年』を発表した。この政策では、発電燃料を石油から石炭と原子力発電に切り替える他に、北海油田の開発、発電の余熱利用、天然ガスの利用、建物への省エネ策などを盛り込んでいた。この中で原子力発電は市民の反対運動で導入しなかった。
1990年春、エネルギー省は、1887年のBrundland報告書と、1988年カナダのトロントで開催された気候変動に関する国際会議での勧告をもとに、持続可能なエネルギー供給策、「エネルギー2000年、持続可能な発展に向けた行動計画」(Energi 2000)を発表した。この計画では:
①二酸化炭素の排出量を2005年までに1988年に比べ20%削減し、エネルギー消費量を15%削減する。
②二酸化硫黄、窒素酸化物の排出量を2005年までに1988年に比べそれぞ60%、50%削減する。
など、エネルギー自給と地球温暖化防止を同時に進める政策を採り入れ、計画実現に向け、エネルギー消費量の削減、エネルギー供給体制の効率化、クリーン・エネルギー導入の強化策など策定した。これら政策の実現に向けた財源の確保を目的とし、1992年3月、電力料金に対しkWh当たり0.1クローネ、灯油に対し1リットル当たり0.27クローネを課税する「二酸化炭素税」を導入し、風力発電、バイオガスプラントへの助成金に充てた。
2016年末、エネルギー消費量全体に対して、再生可能エネルギーの占める割合は約29%である。この中でもっとも多いのはバイオマス(麦藁、ウッドチップ、木材ペレット、薪)で、その次に多いのは風力発電である。バイオマスの中でウッドチップや木材ペレットの多くは、輸入しての活用であるので国内資源とは言えない。そういうことから国内資源で最も多い風力エネルギーの活用について記述する。
1990年3月、エネルギー省は「風力発電の導入手引書」を発効し、風力発電建設の手続の簡素化を図った。その中で風車の建設許可取り扱い業務窓口は風車を設置する場所の市町村役場とした。また風力発電所の設置場所として建築法、土地分割法、環境保護法、自然保護法、航空法、電波通信法、農地法などを整理し、風力発電所を設置して良い場所と設置していけない場所を具体化した。この中で例えば農地法との関係においては、農場主が自己の農地に風車一基を設置する権利を認め、また風力エネルギーは地元のエネルギー資源とし、風力発電所への投資に関して、設置場所と投資家の居住地を関連づけた。つまり風車に投資できる資格を持つ者は、同市町村内に過去10年間の内、最低2年居住している給与所得者か自営業を営む成年であることを規定し、風力発電が外からの投資家の単なる投資対象にならないように制限した。この制度は2000年4月に廃止されたが、この制度の導入によって、風力発電の適地に住む住民の投資を可能とした。さらに風車を分割して所有する協同組合方式を採り入れそれに伴い、1996年5月、風車を協同で所有する組合員の数が10名を超える風力発電所の売電収支の税処理に関し、会計報告書の作成を義務つけた税規定を発効した。
風力発電が増えた背景には、風力発電への市民参加を義務化した以外に、売電価格制度の導入、電力会社の買取義務、発電補償と保険制度、それを踏まえ、設備投資額へ資金繰りを容易にした融資制度が出来たこと、また風車増設に伴う系統を国営化し系統の強化を図ったことなどがあげられる。デンマークの風力発電導入政策は陸内から洋上へと拡大され、その結果、今日人口一人当たり風車の設備量は約1kWに達し、その発電量は消費電力量の約43%を占めるに至っている。


3.おわりに:
デンマークのオイルショック後におけるエネルギー政策の基本に、国民生活に欠かせない食糧とエネルギーの確保を国土(農地)に置いたこと、エネルギー供給に向け、市民の参加を義務付けたことなどがある。また国内エネルギー資源の効率的利用においては建物の省エネ化を図る政策の導入と、バイオガスやコージェネ発電の熱利用として地域暖房会社の整備を図ったことなどがある。これら政策導入の成果は、二酸化炭素の排出削減量で見ることが出来る。二酸化炭素の排出量(実績)は1980年約6,4303万トンであった。2016年のそれは約3,670万トンと約43%削減した。この間、人口は512万人(1980年)から573万人(2016年)と11%増えていることを考え合わせると、エネルギー政策は地球温化防止に貢献していることが判る。デンマークの1976年以降に導入された各種エネルギー政策の成果は、エネルギーの自給率の改善でも見ることが出来る。1973年エネルギー自給率が約2%に対し2016年のそれは全体で83%であるが、石油(106%)と天然ガス(114%)においては自給率を越え、輸出している。
エネルギー政策の成果は、新たな雇用を国内外に生み、外貨獲得の事業を生んだ他に、国外企業の投資先のモデル国になっている。(了)

 

主な参考文献:
増補版デンマークという国 自然エネルギー先進国「風のがっこう」からのレポート,
Energistatistik 2016,Statistik Årbog 1976.

講演レジメ【パワーポイント原稿】

ダウンロード
市民参加を義務付けたデンマークのエネルギー政策とその国情
2018年12月7-9日沖縄演特別講演 (1).pdf
PDFファイル 3.2 MB