A. デンマークの再生可能エネルギー政策(概略)
今日におけるデンマークの再生可能エネルギー政策導入の背景には、イスラエルとアラブ諸国の紛争が、原因となって発生した第一次石油供給危機(1973年)があります。
オイルショック前後の原油価格の推移について見ますと、1972年の原油価格は、1バレル当たり2.57 ドルで取引されていましたが1973年には4.85ドル値上がりし、1974年にはさらに11.53ドルに急騰しました。
その後『イランとイラク戦争』の影響も含めて、第二次オイルショックを迎え、原油価格は1バレル36.89ドル(1981年)まで高騰しました。1970年代の始めデンマークの発電燃料の9割は安価な石油に依存し、残りは石炭を使っていましたが、石油が高騰したため、デンマークの発電所は石油から石炭に発電燃料を替え、約5年後の1970年代の末にはデンマークの発電燃料の9割は石炭となり、残り1割は石油となりました。
デンマークでは第一次オイルショック後まもなく再生可能エネルギー資源の利用への活動が始まりました。その一つは1975年頃に設立された「原子力発電情報協会(OOA)」(Oplysning om Atomkraft), と「再生可能エネルギー協会(OVE)」(Organisationen for Vedvarende Energi)です。
前者OOAは主に原子力発電における各種の問題を取り上げ、それに替わる再生可能エネルギー供給策の導入を奨励しました。特にOOAに所属していたOle Terneyはデンマークの政府が提案した原子力発電導入政策に対し、再生可能エネルギーの導入策を選択させるための政治的面で大きな活動を起こした人だと云われています。
Ole Terneyは,「ソフトなエネルギーへの道(Bløde energiveje)」の著者Amory Lovinsをデンマークに招待し、デンマーク各地において「原子力発電に依存しない世界のエネルギー供給」(Verdens energiforsyning uden atomkraft)という演題での講演を企画しました。
また彼はデンマーク農科大学の環境部と協力し太陽エネルギー、風力エネルギーそしてバイオマスエネルギー源による再生可能エネルギーの供給案を提案し、それをもとに、1975年秋、再生可能エネルギー導入計画の作業班を立ち上げました。
この作業班のメンバーに加わった人たちはAmory Lovins, Siegfried Christinsen, Don Butler, Svend Ganneskov, Helmuth Hansen他数多くいます。この人たちは1975年秋再生可能エネルギー協会(OVE)を創設し、1976年に最初の機関誌「再生可能エネルギー」(Vedvarende Energi)を発行しました。
第一次オイルショック後1976年5月デンマーク政府は『エネルギー計画1976年』発表しました。この政策では主として:
① 発電燃料は石油から石炭と原子力発電に切り替える。原子力発電の建設に関しては1985年から1993年までに90万キロワットの発電所4か所建設し、その後1995年と1999年に130万キロワットの原子力発電所2か所建設する。
② 北海油田の天然ガスを全国に供給する。
③ 全ての県と市町村は省エネに向けた熱供給計画案を立案し実施する。
デンマーク政府は、この政策導入計画を基に、数値でのエネルギー供給量を発表しました。
それによりますと、1995年におけるデンマークのエネルギー総供給量は1,053ペタジュール(PJ)とし、その内訳は、石炭101(9.6 %)、石油503(47.8 %)、天然ガス168(16.0%)、原子力239(22.7%)そして再生可能エネルギー42(約4.0 %)でした。
しかし、1995年の実績は表1の通りで、石炭がゼロ、原子力発電ゼロ、一方再生可能エネルギーの供給量は56.9PJと1976年計画の13.5倍になりました。
表1.デンマークの資源別に見たエネルギー供給量(単位:PJ)
|
1972年 |
1980年 |
1990年 |
1995年 |
2000年 |
2001年 |
2002年 |
2003年 |
2004年 |
原油 |
3.8 |
12.6 |
256.0 |
391.6 |
765.0 |
726.0 |
780.0 |
780.0 |
828.0 |
天然ガス |
- |
1.0 |
116.0 |
196.9 |
310.0 |
318.0 |
318.0 |
302.0 |
356.0 |
再生可能 エネルギー |
14.3 |
27.5 |
52.6 |
56.9 |
89.0 |
95.0 |
103.0 |
112.0 |
120.0 |
可燃廃棄物 |
|
4.8 |
7.0 |
10.3 |
13.7 |
|
|
|
|
計 |
18.1 |
41.1 |
424.6 |
655.6 |
1164.9 |
1138.0 |
1202.0 |
1194.0 |
1303.0 |
エネルギー 自給率 |
2% |
5% |
51% |
|
139% |
136% |
145% |
144% |
155% |
(出典:Energistatistik 1996, 2004) *単位百万トン、1 PJ=石油換算で約23,900トン
このデンマーク政府のエネルギー供給政策案に対し、1976年の夏、再生可能エネルギー協会(OVE)のグループは原子力発電に替わる代替エネルギー供給策として、デンマークが選択すべきエネルギー供給計画案の作業に取り掛かりました。
そしてこのグループは1976年10月「デンマークにおける代替エネルギー計画概要」(Skitse til alternativ energiplan for Danmark, oktober 1976)を発表しました。この代替エネルギー計画概要の執筆者はSusanne Blegaa, Fred Hvelplund, Johs. Jensen, Lars Josephsen, Hans Linderoth, Neils I. Meyer, Bent Sørensen そしてNiels P. Ballingです。
このグループは原子力発電建設賛成派の「原子力発電なしでは経済の発展はなく、国民はそのために穴倉生活に戻るだろう」という経済停滞の警告に対し、再生可能エネルギー資源によるエネルギー供給を全面に出すことを避け、建物の省エネ政策を強調しましました。
暖房を必要とする期間が長いデンマークにおいて、建物が消費する熱量を削減することで、エネルギー供給量を減らす、一方で断熱効果を高めるための住宅建設によって建築業界の雇用を確保するということでした。彼らは再生可能エネルギー源によるエネルギー供給量がどの程度になるか、把握出来なかったため、建物の省エネの方が国民への説得力があると判断したためでした。
それと並行し、再生可能エネルギーの導入によるエネルギーの供給策も提案しました。1976年10月に彼らが提案したエネルギー供給政策によると、1995年におけるデンマークの総エネルギー供給量は967ペタジュール(政府案に対し8.2%削減)で、この内訳は石炭117PJ(12.1%)、石油503PJ(52.0%)、天然ガス230PJ(23.8%)、原子力ゼロ、再生可能エネルギー117PJ(12.1%)でした。
デンマークにおける原子力発電導入案への国民間の議論
オイルショックが発生する前の1971年2月、デンマークの電力会社(ELSAM)は原子力発電所の建設を決めました。それをもとに、1972年デンマーク議会はデンマーク初の原子力発電建設地を調査するための委員会を設立しました。電力会社と政府の原子力発電所の導入の動きに対し、導入反対の記事を最初に書いたのは、エンジニアのEigil Poulsen と航空パイロットのMogens B. Vikstrømとでしたが、本格的に原子力発電の導入問題について議論が高まったのは、第一次オイルショック後の1974年当たりからです。
世界の科学者の中には熱狂的な原子力発電導入推進派が多く居ると云われ、デンマークの科学者の中で原子力発電推進者と語られていた人としては教授のPoul L. Ølgaard, Bent Elbek, Allan Machintoshが居ました。
デンマーク議会においても、原子力発電推進派は過半数を超えデンマークの二大政党である社会民主党と自由党の議員の過半数は原子力発電導入の推進グループになっていました。また、デンマークの産業界、労働組合も原子力発電導入の推進派でこの中には、デンマークの産業連盟、リソー研究所、雇用者連盟、エンジニア連盟、全労連、デンマーク金属労働組合も原子力発電の導入賛成派となっていました。その他、デンマークのラジオ、テレビそして殆どの新聞社も原子力発電導入推進派でした。これらの原子力発電導入賛成者の意見は、原子力発電なしでは産業の発展は望めない、雇用もエネルギー供給も困難である、と語り、原子力発電所の導入を強く支持していました。
この強力な原子力発電所の導入推進派グループに対し前出したEigil Poulsen 、Mogens B. Vikstrøm他、Ingrid Hind, Lars Josephsen, Oluf Danielsen, Jørgen Boldt 等は原子力発電の導入反対運動を繰り広げるため、1973年コペンハーゲン原子力グループ(Københavns Atomkraftgruppe, NOAH)設立し、新聞に投稿文を書き、全国の集会所を利用し、リソー研究所や電力会社の原子力発電の推進派を招へいし反対派との討論会を多数開催しました。 前述しましたが、この人たちは1975年「原子力発電情報協会(OOA)」(Oplysning om Atomkraft), を設立しました。原子力発電導入反対者が掲げた,「原発導入反対」の主な理由は:
① 事故が起きた場合、補償に莫大な費用がかかること、
② 高放射能物質の安全な格納(保管)場所が無いこと
③ 原子力発電の燃料から爆弾が作られること
④ 原子力発電所を廃炉にするためには膨大な費用がかかること、でした。
デンマーク議会は1974年「エネルギー情報キャンペーン」を決め、この当時エネルギー問題を管轄していたのは通商省ですが、通商省の中にエネルギー問題を取り上げるための委員会を設立し運営予算を計上しました。
この委員会は、原子力発電の導入賛否論の問題を解決する方法として、原子力発電の推進派と反対派の意見を取り入れた著書を出版することでした。この執筆には、原子力発電導入賛派を代表してC.U.Linderstrømlang, が担当し、導入反対派を代表してNiels I. Meyer が執筆することになりました。彼らは原子力発電の導入の賛否に関し全部で6冊の本を出版しました。その中の一つに「原子力発電を基にした将来? (Er fremtid med Atomkraft ?)」や「原子力発電所は必要」(Kernekraften er nødvendig)があります。
そして1975年の夏、6冊目として再生可能エネルギーの導入策に関する賛否論が出版されました。デンマークの人たちはこの6冊の出版物を通し、原子力発電の導入に関する賛成派の意見と反対派の意見を知ることができました。
この情報活動の結果、国民の多くは原子力発電の導入に反対するようになりました。原子力発電の導入に国民の多くが反対していることを知った、政府与野党は1976年8月、原子力発電の導入計画を引き延ばすことをきめました。原子力発電情報協会(OOA)と再生可能エネルギー協会(OVE)は、政府与野党が原子力発電導入計画引き伸ばし後においても原子力発電の導入反対運動を続けました。この時に原発反対支持者の中で付けられのは「太陽のスマイルマーク」でした。インターネット情報によりますと、このマークは1975年4月に原子力発電導入の反対運動に加わっていた当時21歳デンマークの大学で経済学を勉強していた女子大生がデザインしたものです。彼女は「太陽のスマイル」に原子力おことわりと書いたロゴマークをデザインしました。このロゴマークは原子力導入反対運動のシンボルマークとなり日本語含め45か国語に訳され今日までに3500万個製造されたと書いていました。
原子力導入反対シンボルマーク:
1975年4月当時21歳で大学で経済学を学んでいた原子力導入反対運動に参加していた
デザインした人の女性。
45か国語に訳され、3500万個が生産された原子力導入反対シンボルマーク
デンマークの原子力発電の導入問題は、1985年3月29日「原子力発電に依存しない公共エネルギ-計画に関する国会決議」(Folketingsbeslutning om offentlig energiplanlægning uden atomkraft)となって議会で可決され、幕を閉じました。そして翌年の1986年4月ロシアの原子力発電所Tjernobly事故に遭遇しデンマークの人たちは原子力発電を選択しなかったことに安堵しました。
風力発電を育てたデンマークの制度
デンマークに風力発電の試験場が開設されたのは1979年のことですが、それに先立ち、1974年頃からリソー研究所に所属していた風力発電機の専門家Helge PetersenはTvind国民高学校の風力発電の設置工事の指導者を務めていました。その経験から彼は風力発電機の試験場の必要性を政府に提案していました。そして、既に触れました通り、デンマーク政府は1976年8月原子力発電導入計画を引き伸ばしました、その代案(原子力発電の代わる案)に風力発電の導入政策を取り入れました。1978年4月デンマークの通商省は向こう3か年にわたって風力発電の開発に補助金を出すことを決め、1979年リソー研究所の中に「小型風力発電機試験場」を開設しました。
この「小型風力発電機試験場」はその後、世界初の風力発電機の設計から稼働までの一貫した認可機関「風力発電機の型式認可制度」機関となりました。このデンマークが導入した風力発電機の認可制度は、その後ドイツとオランダが取り入れ筆者が知る限り今日において、風力発電機の認可制度を導入している国は世界各国の中でこの3か国のみです。
デンマーク議会は、リソー研究所の中に風力発電機の試験場を創設すると共に、同試験場が認可した風力発電の設備投資に対し、1979年から設備投資額に対する助成金制度を採り入れました。この風力発電への補助金政策は1989年に廃止されましたが、風力発電所の設備投資額に対し30~15%の政府補助を出しました。この結果デンマークの風力発電設備は1979年のほとんどゼロの状態から補助金制度が廃止された1989年末で約2300基、出力24万キロワットに急増しました。
1990年3月デンマークのエネルギー省、再生可能エネルギー情報秘書室、デンマーク技術院は、風力発電への投資に関する事務手続きをまとめた「風力発電の導入手引書」を発行しました。この「風力発電の導入手引き書」で決めたことは:
① 風力発電所を設置する場合、建設許可申請を出すこと、その申請書の届出窓口は風力発電所を設置する場所の市町村役場とする、と決め
② 風力発電所の設置場所として関係する法律(建築法、土地分割法、環境保護法、自然保護法、航空法、電波通信法、農地法など)の整理し、風力発電所を設置して良い場所と設置していけない場所を具体化しました。この中で例えば農地法との関係においては、風力発電機の基礎分に当たる面積の農地25m2以下であれば、農業以外の目的に利用できることを認め、農地を所有する農場主に1基の風力発電を設置することを認めました。
③ 風力エネルギーは地元のエネルギー資源とし、風力発電所の設置場所と所有者の居住地を関連づけ、風車への投資資格者として「風力発電所を所有できる者は同市町村内に過去10年間で最低2か年居住している給与所得者か自営業を営む成年であること」と規定し風力発電が外部の投資家の単なる投資対象にならないように制限しました。この制度は2000年4月に廃止されましたが、この制度の導入によって、強風地帯に住むデンマークの人たちは風力発電に投資することによって経済的に豊かになり、それがまた、デンマークの風力発電の導入促進につながりました。1989年に設備投資に対する補助金制度が廃止され、その後風力発電の助成策は売電価格に上乗せするという制度に切り替えられました。
1990年春デンマークエネルギー省は、1887年のBrundland報告書と1988年カナダのトロントで開催された気候変動に関する国際会議で勧告された「2000年までに二酸化炭素の排出量を安定化させ、2005年までに二酸化炭素の量を20%の削減する」、とした国際社会の目標値を達成させるため、デンマークが採るべき、持続可能なエネルギー開発(Bæredygtig energiudvikling)を盛り込だ、第3次エネルギー計画「エネルギー2000年、持続可能な発展に向けた行動計画」(Energi 2000、Handlingsplan for en bæredygtig udvikling)を発表しました。この計画では:
① 二酸化炭素の排出量を2005年までに1988年に比べ20%削減し、エネルギー消費量を15%削減する。
② 二酸化硫黄、窒素酸化物の排出量を2005年までに1988年に比べそれぞれ60%、50%削減する。
この目標を達成するために、デンマーク議会はエネルギー供給体制の効率化を図り、クリーンエネルギー供給への切り替えを進め、エネルギー消費の削減に向けた省エネ研究開発を奨励することにしました。その財源として、1992年3月、電力料金に対しキロワット時当たり0.1クローネ(この当時の円換算レートで約2円)、灯油に対し1リットル当たり0.27クローネを課税する「二酸化炭素税」を導入しました。この炭素税を財源に、風力発電やバイオマス発電の売電価格への助成金としました。
1994年9月デンマーク議会はエネルギー省を廃止し、新たに「環境・エネルギー省」を設置し、環境とエネルギー問題をまとめて管轄することにしました。そして1996年3月、デンマーク議会は第4次エネルギー政策として、資源の有効利用と少ない環境負担をエネルギー政策の主題においた「21世紀のエネルギー政策」(Energi 21)を発表しました。風力発電の増設に関し、この計画では、2005年までに陸内に150万キロワットの設備を設置する。さらに1997年7月には洋上ウインドファームの建設計画を発表し2030年までに洋上に400万キロワットの風力発電機を設置することを計画にいれました。
このようにオイルショック前後から、デンマークがとった一連のエネルギー政策の結果、風力発電の設備量は増え続け、2001年末における風力発電の設備量は2005年の政府目標150万kWを大幅に先取りし、設置台数は6500基、出力250万kWに達しました。因みにデンマークにおける再生可能エネルギー資源によるエネルギー供給量は表2で見る通りです。そして表3は資源別に見た再生可能エネルギー供給量の内訳です。
表2.デンマークの資源別に見たエネルギー供給量(単位:PJ)
|
1972年 |
1980年 |
1990年 |
2000年 |
2001年 |
2002年 |
2003年 |
2004年 |
原油 |
3.8 |
12.7 |
256.0 |
765.0 |
726.0 |
780.0 |
780.0 |
828.0 |
天然ガス |
- |
- |
116.0 |
310.0 |
318.0 |
318.0 |
302.0 |
356.0 |
|
|
|
|
|
|
|
|
|
再生可能 エネルギー |
14.3 |
27.5 |
52.6 |
89.0 |
95.0 |
103.0 |
112.0 |
120.0 |
計 |
18.1 |
40.2 |
424.6 |
1164.0 |
1139.0 |
1201.0 |
1194.0 |
1304.0 |
エネルギー 自給率 |
2% |
5% |
51% |
139% |
136% |
145% |
144% |
155% |
(出典:Energistatistik 1996, 2004) *単位百万トン、1 PJ=石油換算で約23,900トン
表2の中で再生可能エネルギー供給量の中身を見ますと表3の通りです。表3で風力発電以外の再生可能エネルギー供給量では廃棄物や木材廃材そして麦わらが入っていますが、これら資源の利用に関しては、1986年6月にデンマーク政府は天然ガス、麦わら、木屑、バイオガス、可燃廃棄物を燃料とした分散型の発電所設備計45万kWの建設計画が決議しました。その結果がこの数値です。因みに麦わら1㎏の燃料価値は灯換算で約0.3リットルと云われ、2011年デンマークの農家が生産する年間約5百万トンの内約200 万トンが燃料化されました。木材の燃料価値につきましては、硬い木ほど燃料価値があり、例えば乾燥した樫の木の燃料価値は1立方メートル当たり灯油換算で約150リットルと云われています。
表3.デンマークの再生可能エネルギー資源によるエネルギー供給量(単位:PJ)
|
2001年 |
2002年 |
2003年 |
風力発電 |
15.5 |
17.6 |
20.0 |
廃棄物 |
32.2 |
34.0 |
36.2 |
バイオガス |
3.0 |
3.4 |
3.6 |
麦藁 |
13.7 |
15.7 |
16.7 |
木材・廃材 |
25.7 |
28.6 |
29.5 |
その他、熱ポンプ |
4.5 |
4.1 |
6.3 |
合計 |
94.6 |
103.4 |
112.3 |
(出典:Energistatistik 2004)
表4はデンマークのエネルギー消費量の推移です。デンマークのエネルギー消費量は1990年の753ペタジュールに対し、2013年それは763ペタジュールとなっています。再生可能エネルギー源からの供給を除き、デンマークの化石燃料の消費量は減っています。この背景にはデンマークの人達は風力発電、バイオマス利用など再生可能エネルギー資源の利用を通し化石燃料での発電や給湯を削減したこと、住宅など建物の断熱性を高め暖房を節約したこと、分散型コージェネ発電所(熱と電気を供給する発電所)の建設を通し、エネルギーの資源の効率化を図ったためです。これらの政策導入の結果、デンマークのエネルギー消費における二酸化炭素の排出量は1990年の5,310万トンから2012 年には3,980 万トンに減りました。また温室ガスの実質総排出量は1990年の6,930万トンから2011年には5,170 万トンに減りました。
表4.エネルギー消費量、実質の推移(単位:PJ)
年代 |
1980 |
1990 |
1995 |
2000 |
2005 |
2009 |
2010 |
2011 |
2012 |
2013* |
消費量合計 |
830 |
753 |
841 |
817 |
835 |
810 |
846 |
792 |
760 |
763 |
内訳:石油 |
555 |
343 |
372 |
370 |
348 |
315 |
315 |
303 |
287 |
281 |
天然ガス |
0 |
76 |
133 |
186 |
188 |
165 |
187 |
157 |
145 |
138 |
石炭、コークス |
252 |
255 |
272 |
166 |
155 |
168 |
163 |
136 |
107 |
135 |
可燃廃棄物 |
5 |
5 |
9 |
13 |
16 |
16 |
16 |
17 |
17 |
17 |
再生可能エネルギー |
23 |
48 |
58 |
80 |
124 |
145 |
170 |
174 |
184 |
188 |
電力輸出入量 |
-4 |
25 |
-3 |
2 |
5 |
|
-4 |
5 |
19 |
4 |
エネルギー消費による二酸化炭素の排出量 単位:百万トン |
|
53.1 |
60.3 |
53.6 |
50.8 |
49.0 |
49.4 |
44.3 |
39.8 |
|
(出典:Hovedtal fra Energistyrelsens foreløbige energistatistik for 2012)
今日、デンマークは世界最大の風力発電の所有国になり(人口1人当たりの風力発電所有量は約860W:4.8/5.6百万)、風力発電による年間発電量は、電力消費量約330億kWhの約39%に当たる約129億kWh.になっています。
デンマークが再生可能エネルギーの導入と北海油田の採掘を進めた結果1997年以降、EU27カ国内で唯一、エネルギー自給率100%を記録、それ以来デンマークは2012年までエネルギーの輸出国となっていましたが、北海油田での原油と天然ガスの採掘減などが影響し2013年におけるデンマークのエネルギー自給率は100%を割りました。
デンマーク議会は、2012年3月22日、デンマークの政府与野党間で「デンマークエネルギー政策2012-2020年」を発表し、デンマークの再生可能エネルギー導入策の方向性を示しました。
B.デンマークのエネルギー政策2012-2020年の概要
デンマークの政府与野党間で取り決めした再生可能エネルギー導入政策ので主旨は「デンマークのエネルギー供給を再生可能エネルギーに切り替えることにおいて、長期的信頼と安定を目指すこと」である。そして政府与野党間で取り決めた協定内容は以下の通りです。
・ 取り決め期間は2012-2020年とする。
・ 政府与野党間において毎年政策導入の進行状態などについての現状報告書を作成する。政府は毎年節減実績の報告書を作成し、見込み節約に達しない場合は、特に資金調達に関し、与野党間で再度検討する。
・ 2015年与野党が集合し、取り決めたエネルギー効率パックへの歳出高、年間6千万クローネの2015年以降の継続について審議することにする。
・ 政府与野党は2018年末までに2020年以降における新たな具体導入策に協議すること、など
デンマーク政府与野党間で取り決めた2012年から2020年までのエネルギー政策は大きく分けて省エネ分野とエネルギー供給分野に分けています。この中で省エネに関してはエルギーロスの少ない住宅建設に力を入れることにし、例えば、エネルギー供給会社の省エネにおいて、現存の建物や施設の省エネ量を2013-2014年には2010-2012の75%に当たる年間10.7PJを.省エネし、2015-2020年のそれは年間で12.2PJの省エネを義務つけました。政府は2012-2015年の省エネ対策への補助金として、予算1200万クローネ計上しました。今日、デンマークの新築住宅における省エネ策として、外壁のU-値(注1)最大値を0.15、窓1.40などに義務付け、住宅の省エネを推し進めています。
(注1)U-値とは室内外の温度差において1時間当たり1平方メートル当たり の物体を通す熱量のエネルギー量を現す単位(Wh.)で例えばF3(フロート板ガラス3mm)のU-値は6.0でF5(フロート板ガラス5㎜)のU-値は5.9となっている。
エネルギーの供給面においては、『再生可能エネルギーを採り入れた緑と持続可能なエネルギー供給策』として、下記に掲げる7部門(分野)に力を入れることにしました。
① 風力発電の増設とその他の再生可能エネルギー技術促進
② コージェネ、地域暖房、バイオマスの促進
③ 建造物と産業の再生可能エネルギーへの切り替え
④ スマートグリットの導入
⑤ バイガスの拡大への新たな枠組み
⑥ 運輸部門における電気とバイオマスの取り組み
⑦ 研究開発と実証への増進
上記7部門の概要は以下の通り:
① 風力発電の増設とその他の再生可能なエネルギー技術について:
デンマークは2020年に向け、1000MWの洋上ウインドファームの増設と500MWの沿岸ウインドファームの建設を決めた。この中で1000MWの洋上ウインドファームについては、その内の400MWはHorns Rev(北海海域、Horns RevI, II,計約370MWが稼動中)に2013-15年の完成を目標として増設、残る600MWはKriegers Flak(バルト海)に2017-20年の完成を目標として新設する。500MWの沿岸ウインドファームの建設に関しては、沿岸から4km以内の海域に設置することにしています。陸内で稼動中の風力発電機1300MWを解体し新たに800MWを新設する。デンマーク政府与野党はこの計画実行によってデンマークの電力供給の5割を風力発電で賄うことが出来ると見ています。
なお、現行の売電価格への助成金の見直しとして、陸内に設置した風力発電の売電価格については、2014年1月1日から定格出力換算で22,000時間までキロワット時当たり25オーレ(約4円)助成するが、電力市場価格が33オーレ越えた場合、越えた分につきオーレ体オーレで助成金を削減し、助成金を含めた売電価格の天井額はキロワット時当たり58オーレとしました(2014年8月末現在の為替レートで11.6円)。また助成金の支給に関しては前記した22,000時間の内の30%は風力発電機の定格出力への助成とし、新たに風力発電機の最大8,000m2受風面積に対しその70%を助成する政策を導入しました(注2)。
(注2)2300kWの風力発電機の助成金の算出例:ローター直径92.6m(受風面積 6,734.6m2)助成金が受けられる総発電量:
イ) 22,000時間×2,300kW×0.3=15,180,000kWh..
ロ) 8000m2×6,734.6m2×0.7 =37,713,908kWh..
52,893,908kWh.
定格出力から見た助成金が受けられる時間数:
52,893,908kWh/2300kW=22,997時間
ハ) 助成金額計:22,997×2300×0,25=13,223,477kr。
ニ) 2300kWの風力発電機の年間見込み発電量:7,300,000kWh.
ホ) 年間における定格出力発電時間数:3,174時間
ヘ) 助成金が受けられる年数:22,997/3,174=7.2年
または 52,893,908kWh./ 7,300,000kWh.=7.2年
デンマークの陸内に設置する風力発電所の所有権に関しては、全ての事業者は風力発電機を設置する地点から4.5キロメートル以内に居住する人達に設備量の20%を提供する義務を負い、沿岸風車においては、設置場所から16km内に居住する住民に設備量の20%を提供する義務を負いました。デンマークのエネルギー政策では前述しました、1990年3月に採り入れられた、「風力発電所の設置に関する手引書」の規定によってその後、規定が緩和されながらも、風力資源が一部の風力発電事業によって、独占されないように政策の中に採り入れ、その結果デンマークで風力発電の約8割が個人や個人の団体によって所有されていると云われています。
② コージェネ、地域暖房、バイオマスの促進について
デンマークでは1950年代ころから地域暖房システムを導入し、今日デンマークの市町村の殆どに地域暖房会社が設立され、住宅や施設工場への暖房と給湯をしています。与野党間での取り決めた促進案は次に通りです。
・ 集中型コージェネレーションの燃料をバイオマスに切り替えるための、「熱供給法」の改正を実施し、電力と熱を供給する側と需要家との間で特に、熱供給においては自主的に化石燃料からバイオマス燃料に替える場合は租税面で利点が生じるようにし、そのメリットを双方で分割出来るようにする。
・ 小規模熱供給会社35ヶ所のコジェネ発電所において燃料の高騰で最も苦慮しているコジェネ発電所においては申請にもとずき最大1MWまでのバイオマス熱供給装置の設置を認める。
・ 市町村、業界、エネルギー会社及び政府及び州議会間における戦略的エネルギー計画を振興されるため、2013年から2015年まで1900万クローネの予算を新規に計上する。
・ 将来における地域暖房の役割についての調査とその報告書の作成費として2013年度予算に3百万クローネ計上する、などを取り決めました。
③ 建造物と産業の再生可能エネルギーへの切り替え
与野党間において既存の建物から石油ボイラーを除去することを決め、以下について取り決めました。
・ 2013年から新築建造物への石油や天然ガスボイラーの設置許可は発行しない、但し、それに代わる仕組みが無い場合は別とする。
・ 地域暖房や天然ガスが敷設されている場所において、2016年以降、既存する建物への石油ボイラーの取り付けは許可しない。但し、石油ボイラー代わるものが無い既存の建物では、石油ボイラーの設置は可能とする。
・ 既存の建物における石油及び天然ガスによる暖房と給湯を再生可能なエネルギー源に切り替えることへの調査費として、2012年から2015年までの計4200万クローネ計上する。
・ 企業及び園芸におけるコージェネ振興助成金として2013年から2020年まで毎年3千万クローネ計上する、など。
④ スマートグリットの導入策
デンマークの政府与野党間では化石燃料の依存を減らすため、電力供給システムの補強や改善を継続して推し進めることにし、この中で「スマートグリット」の構想を固め、以下について取り決めした。
・ 洋上ウインドファーム「Kriegers Flak」の建設に関しEUから11億クローネ助成金が付いたことを踏まえ、デンマークとドイツ間に新たに海底ケーブルを敷設する。
・ 2012年中にデンマークにおける「スマートグリット」の導入に関する総合的戦略報告書を作成する。(この一環としてデンマーク議会は2013年秋、全国の電力消費メーターを国庫負担で取り換え策を導入、2020年までに全ての住宅及び施設など需要家のメーターを取り換えることを決め、既に交換作業が始まっています)。
・ 2020年以降の風力発電所の電力供給の増大にあわせ、系統機能に関する分析調査を実施する。調査報告書の作成は2013年とし、予算として2百万クローネを計上する、など。
⑤ バイガスの拡大への新た枠組み
デンマークの政府与野党はデンマークのバイオガスプラントの経済面の大幅な改善と画期的増設をるため、バイオガスをコージェネ燃料として利用する場合や天然ガス網に供給する場合、補助金額を2012年からギガジュール(GJ)当たり115クローネを支給することを与野党間で取り決めした。この内容は以下の通りである。
・ 現存のバイオガスプラントへのGJ当たり79クローネの補助金額は基礎補助として継続する。
・ 天然ガス網に供給するバイオガスとコージェネ燃料として利用するバイオガスの補助金額は同一とし、天然ガス網に供給するバイオガスへの補助金額はGJ当たり79クローネを基礎補助とする。
・ 企業の生産工程に利用するバイオガス及び運輸においては新たに基礎補助としてGJ当たり39クローネ支給する。
・ バイオガスプラントへの創業助成金は現行の20%から2012年には30%に増やす。
・ バイオガスを利用する全ての施設に対しGJ当たり26クローネの補助する、などの取り決めをしました。
⑥ 運輸部門の電力とバイオマスの利用について
長期的展望にたち、運輸機器の燃料を化石燃料から電力及びバイオマス燃料に切り替える、そういうことから政府与野党間において、以下について取り決めした。
・ エネルギー効率の高いハイブリット車や電気自動車などの導入促進に向けた戦略計画書を作成する。その目的として2013年から2015年計7千万クローネ計上し、電気自動車の充電ヶ所の設置、水素や大型車両用のガスのインフラ整備に支援金を支給する。
・ 2020年における燃料に占めるバイオ燃料の割り合いを10%とする、そのためバイオ燃料法を改正する。但し実施に関してはEUの運輸部門における再生可能エネルギー利用の義務付けとの関係に合わせる。調査は2015年までに終了する。
・ 電気自動車の実証に向け2013年から2015年まで計1500万クローネ計上する。
⑥ 研究開発と実証への増進
研究開発や実証への投資の前提は、デンマークの企業が長期的なグリーンテクノロジーの販売を通しデンマークにおいて新たな職場を確保することにある。これに関しデンマークの政府与野党は下記について取り決めをしました。
・ 更なる再生可能エネルギー技術の効率化を促進するため、政府与野党間において継続して同分野の研究開発と実証を支援することを約束した。
・ 化石燃料に依存しない島サムソー島の実現に向け、継続し実証プロジェクトへの対策費として2012年から2015年まで計950万クローネ計上した。
これら2020年に向けたデンマーク政府与野党間で取り決めした、デンマークの再生可能エネルギーへの取組み計画、それにともなう資金面での工面では、国庫からの支援と各種の間接税の引き上げで賄うようにし、計画実施に伴い産業界や個人への負担を可能な限り、増やさないよう配慮しました。例えばデンマークの電力料金には各種の税金が含まれていますが、再生可能エネルギー源から売電に関し、系統連系の設備への補助金はPSO税(PSO: Public Service Obligation)で賄うことにし、電力消費者に新たな負担が生まれないようにしました。
デンマークの電力供給に占める部門別再生可能エネルギー資源の割合
|
1994 |
2000 |
2005 |
2010 |
2012 |
1994-2012年伸び率 |
再生可能エネルギー計 |
5.3% |
15.9% |
27.4 % |
34.8% |
43.1% |
717 % |
内:太陽光発電 |
0.0 |
0.0 |
0.0 |
0.0 |
0.3 |
- |
風力発電 |
3.4 |
12.1 |
18.5 |
21.9 |
29.8 |
767 |
水力発電 |
0.1 |
0.1 |
0.1 |
0.1 |
0.1 |
-48.6 |
バイオマス発電計 |
1.5 |
3.1 |
8.1 |
11.9 |
11.8 |
706 |
内:麦わら(注1) |
0.2 |
0.5 |
2.4 |
3.1 |
1.8 |
616 |
木材(注2) |
0.4 |
0.7 |
2.9 |
6.2 |
7.5 |
1966 |
廃棄物(注3) |
0.9 |
1.9 |
2.8 |
2.6 |
2.6 |
202 |
バイオガス発電 |
0.3 |
0.6 |
0.8 |
1.0 |
1.1 |
307 |
出典:energistatistik 2012,注1.麦わら1トンのエネルギー量は灯油約330リットル、
注2.密度の高い(硬い木)ほどエネルギー量が多い例:樫の木1m3 =灯油約150リットル
注3:デンマークの可燃廃棄物1トンのエネルギー量は灯油で約250リットル