第二次フレデリックセン内閣と政策(20230120)

1. デンマークの新内閣について

2022年11月1日のデンマークの国会議員選挙の結果については昨年11月にHPに掲載した通りですが、(HP番号20221110)政権が確定するまで、政党間での交渉が長引き、政権が発表されたのが、選挙45日後の12月15日となりました。新政権は社会民主党(議員数50)、自由党(議員数23)そして穏健党(議員数16) による左派(社会民主党)と右派2党(自由党と穏健党) との3党による連立政権となりました。新政権の議員数は89名で議会の過半数*を占めています。* 国会議員数179名の内グリーンランドとフェロー諸島から各2名が選出され、デンマーク国内は175名となっている。 

フレデリックセン第二次内閣の閣僚数は首相のフレデリックセン含め全部で23人で社会民主党議員による閣僚数は10人、自由党7人、穏健党5人となりました。女性の占める割合は首相の他7名、閣僚の年齢層では外務大臣58歳が最年長で、30代7名、40代11名、そして50代5名となっています。政党別に見た主な閣僚では、首相:社会民主党、副首相及び国防大臣:自由党(党首)、外務大臣:穏健党(党首)、財務大臣:社会民主党、法務大臣:社会民主党、産業大臣:社会民主党、経済大臣:自由党、内務及び厚生大臣:自由党、文化大臣:穏健党、環境大臣:社会民主党、社会及び住宅大臣:社会民主党、労働大臣:社会民主党、児童及び教育大臣:社会民主党) などとなっています。

 

2. デンマークの国防費と休日返上について

ロシアのウクライナ侵攻から間もなく11カ月が経とうとしています。デンマークは当初から一貫として経済的にも軍事的にもウクライナを支援してきています。そんな中、国防費を確保するため新政権は300年以上も続いて来た(1686年3月27日導入)、祝日を2024年から労働日とする法案を議会に提出されることになりました。返上が計画されている祝日とはデンマークでは大きなお祈りの日(Store Bededag*)と呼んでいる祝日です。* イースターの日曜日4週間後の日曜日の前の金曜日に当たる日。

休日の返上の背景には国防予算の増大を計画しており、それによりますとデンマークの国防費は2030年からその割合は国民総生産に(GNP)対し2%に引き上げることに決めています。その増額分を確保するための手段として休日を返上して働くことにするということです。2021年におけるデンマークの国防費は対GNP比で1.34%、2023年のそれは1.5%、ですが、その割合を徐々に比率を引き上げ2030年には対GNP比2%に引き上げることにしています。2030年における国防予算の推定額は460億クローネ(約1兆円)を見込んでいます。(2020年における予算額は253億クローネとなっている)。

この休日返上に対し、殆どの業界から大反対の声が上がっています。その反対に対し、政府の見解は、国防費の確保上止む得ない政策だと語っています。因みにデンマークの国家財政は黒字で2021年のそれは587億クローネ(約1.2兆円)となっています。

 

3. デンマークにおける風力及び太陽光発電について

2022年デンマークにおける風力発電と太陽光発電による発電量は国内電力消費量の59.3パーセントに当たる約197億キロワット時発電しました。2021年に比べ約11.9%を増えましたがその背景には新たに60万kWh のウインドファームが系統連系しそれによって約60万世帯分の発電量を生んだことも理由になっています。デンマーク政府与野党間では長い間、風力発電の増設に力を入れ、特に洋上ウインドファームの増設に力を入れていますので、これからも風力発電の割合や太陽光発電の割合が増え続けるものと思っています。デンマークの洋上ウインドファーム用の風車の大型化が進み、国立風力発電テストセンター*には大型風車の実証試験(プロットタイプ)が設置され、その中に15MWの風力発電機の実証試験も始めています。* 2012年10月大型風車の実証試験(プロットタイプ)場としてデンマークでは強風地帯と呼ばれている元砂丘約250ヘクタールの松林を伐採しブレードの突端の高さ330mまでの大型風車7基を設置する場所を確保した。風車の実証試験はデンマーク工科大学が携わっている。テストセンターでの実証試験を終えた後で商業用風車として市場の流すことになっている。

 

4. デンマーク最大の洋上ウインドファーム用風車の決定について

2018年デンマーク政府与野党間で決めた、遅くとも2026年までに建設するとした、デンマーク最大の洋上ウインドファーム(Thor Havvindmøllepark)の機種が今年(2023年)1月12日決まりました。それによりますと、設置する機種はSiemens-Gamesaの14MWの風車で72基を設置することが決まりました。同洋上ウインドファームの設置場所はユトランド半島西北部西海岸から22㎞沖合となっています。(下記地図の左上の洋上)

    設備量:14MW×72基  計1,008MW

    見込み 発電量 約80万世帯から100万世帯分の電力量

    起動年予定:2026年

この洋上ウインドファームの建設に落札したのが、ドイツの電力会社(RWE)で入札価格はキロワット時当たり0.01 オーレとなっており、ドイツの電力会社はデンマーク政府に対し発電量を払うという条件での建設となっています。デンマークの2030年における二酸化炭素排出削減目標が70%で、この洋上ウインドファームの起動によって同目標が達成できると語られています。

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上記で記述した通り、第二次フレデリックセン内閣は国民生活を守り維持するための手段として左派と右派の政党がお互いの政策論を譲り合い内閣を築いたわけですが、政治家に科せられた国民が安心して、不安の無い生活してもらうための国家運営の役割を果たすために選んだ選択だと見ています。この政策の背景には女性議員の数が多いこと(全体の39.1%)国会議員の平均年齢が46.2歳と若く、国会議員であると共に母親あるいは父親の年齢層の人たちが家事だけではなく国事に参加しています。つまりデンマークの国の政策の裏に見える、次世代に負担を掛けない国策の背景には、親の子供への愛情が見受けられます。国防費の増額に対し、休日を返上して稼ぎ出す政策(日本では補正予算という名目での国防費は借金で賄う)、二酸化炭素排出量の削減の手段として、国際入札による洋上ウインドファームの建設とそれによる歳入(記述したドイツの電力会社が建設するウインドファームからデンマークに支払われる洋上借料は28億クローネとも言われている)がそれにあたると言えます。

デンマークの家庭には授業料という名目での出費はなく、学生には国庫から生活費が出ます。税金で賄っている国民年金生活者数は100万人います。デンマークでは病院の治療あるいは医療費を心配している人はいません。理由はこれらの諸経費は国庫負担となっているからです。そうかと言ってデンマークの財政は黒字です。国の借金が少ないのは、政治行政に携わる人達が、国家運営に責任を持って臨んでいるためだと思っています。(了)

 

2023年も宜しくお願いします。

 

デンマーク・ウアンホイにて

ケンジ ステファン スズキ