再生可能エネルギーと産業の活性化(20230315)

①     デンマークにおける風力と太陽光の発電量について

前回のHP原稿でデンマークの風力発電量の記録について書きましたが、2022年におけるデンマークの風力と太陽光発電量の総電力消費量に対して占める割合は約59.3%になり、前年(2021年の47.4%)に比べ約12%伸びたと報じられました。主な理由はバルト海に設置した洋上ウインドファーム* の起動で、約60万世帯分の電力供給(約25億kWhの発電量)が増えたためと語られています。なおデンマークの風力発電と太陽光による発電量の割合は、2013年時点で約30%だったのに対し、約10年間で倍増したことが解りました。

*Kriegers Flad, 8.3 MW 72 基、604MW、売電価格0.372kr/kWh, 工事費約100億クローネ。

 

2022年の発電量の内訳を見ますと、風力発電の割合は53.2%、(2021年に比べ約9.5%増)太陽光発電の割合は約6.2%(2021年に比べ約3.6%増)となっています。2022年発電量で見ますと風力発電は約190億kWh、 太陽光は約22億kWh、で風力と太陽光を合わせた発電量は212億kWhとなりました。2021年おける風力と太陽光発電は約173億kWhと比較して、2022年は約22.5%増となっています。2012年デンマーク政府与野党間で2020年における風力発電量の割合を電力消費量に対し約50%を発電することを目標にして取り組んできました。その目標が2年遅れで達したようです。なお、デンマークにおける風力発電と太陽光以外の再生可能エネルギー資源による生産量について2021年の例で見ますと(2022年の数値は2023年の12月発表される)以下の通りです。

 

・麦わら:21.58PJ* (約60億kWh)* 1 PJ = 2億7800万kWh

・木材:42.34PJ(約117.7億kWh)    注:これらのエネルギー資源による発電の

・バイオガス:26.19pJ (約72.8億kWh)   割合は約20%で残りは熱として利用。          

・廃棄物:19.52PJ(約56.3億kWh

・その他:23.11PJ(約64.2億kWh) (kilde: energistatistik 2021)

 

デンマークの2022年の風力と太陽光による発電量212億kWhを、石炭火力発電所で発電した場合における石炭の消費量は約664万トン(1kWh発電に必要な石炭量は約332グラムとして計算)ですが、この石炭を燃やしたことによって発生する二酸化炭素量は約1,554万トン(石炭火力発電から出るCO2排出量はキロワット時当たり772グラムとして計算)と計算されます。また、デンマークが664万トンの石炭を輸入しなくて済んだことによって、節約できた外貨は265万6千ドルと計算されます。(石炭の輸入価格1トン当たり400ドルとして計算)。一方、デンマークでの風力及び太陽光発電業者の売電による納税額が増え国家財政への寄与と合わせ系統整備への資金を生んでいます。

デンマークの国土面積は、九州と山口県を合わせた面積で、風力発電や太陽光発電など不安定な発電供給に対し電力業界が取り組んできたのは(きているのは)隣接国との系統連系です(日本で9電力がお互いに電力供給を実施していると同じ方策)。

デンマークの隣接諸国、ノルウェー、スウエーデン、ドイツ、オランダ、ベルギーと系統連系し、そして2014年にはイギリスとの間に系統連系の契約を取り付け、その工事に入っていますが、この系統連系に合わせ、多くの業務が生まれて来ています。そのことについて記述します。

 

②       デンマークの系統連系について

Viking Link とよばれているデンマークとイギリスとの系統連系については、以前のHPでも触れましたが*、これに付随した工事として、ケーブルの補強工事が決まりましたので記述します。Viking Linkは、イギリスとデンマークとの間で進められている一般家庭140万世帯分へ電力供給を目的とした系統連系工事で、ユトランド半島の西部とイギリスの東部海岸との間を海底ケーブルで結ぶ工事です。使われるケーブルはDC400kV(直流40万ボルト用)のケーブルを約625㎞海底に敷設し、陸地内と合わせるとケーブル全長は約765㎞と言われています。この海底ケーブル工事は2023年12月31日に終了することになっています。

陸地側のケーブル工事では、デンマーク(高圧400kV,76㎞)もイギリス66.5㎞も終了しており、直流から交流に変電する変圧所の工事に入っています。*HP番号:20200210

 

下図1.に見る中でオレンジ色のケーブル工事はイギリスとデンマーク側の協同工事、デンマーク側の白点線はユトランド半島の西側に張られる送電線の強化で、ユトランド半島の中西部の町Holstebro市の南に所在するIdomlund からドイツとの国境までの送電線を現わしています。この送電線の整備の中で約28㎞に渡りケーブルを地中に埋める工事の入札が行われ(デンマークの系統はEnerginetが 運営管理)、落札したのはデンマークの業者Munch Forsyningsledningerと呼ばれる事業者です。同社は従業員数750人で主な業務はケーブル、水道、下水道、地域暖房工事に携わっている土木業専門会社ともいえます。

専門会社によるケーブル埋め立て工事風景

Kilde. Munch Forsyningsledninger

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28㎞のケーブル埋立工事費の落札額は、1億5千万クローネ(約30億円)で、工事は40万ボルト送電用としてケーブル12本を4つに分けて24㎞埋め、他に15万ボルトの送電用として6本のケーブルを4㎞埋めると語られています。工事の終了は2025年の中と語られています。

図1 白点線 新規送電線敷設図

オレンジ点線 Viking Link海底と陸内を合わせたケーブルの長さ約765㎞

工事費;150億クローネ(約3,000億円)

 

③      海底ケーブル製造メーカーNKTについて

デンマーク国内だけではなく世界各地で洋上ウインドファームの建設、再生可能エネルギー源による分散型発電所(風力発電、太陽光発電、可燃廃棄物を含めたバイオマス発電、バイオガス発電)の建設によって送電線の確保や補給が必要になってきました。その送電線の供給で事業の業績を伸ばしているのはデンマークのケーブル製造会社です。同社の業績の一部を紹介します。

通貨

百万ユーロ

2022年第三四半期

百万ユーロ

2021年第三四半期

純売上高

492.0

479.7

税引前利益

20.9

3.3

当期利益

19.9

0.2

従業員数

4,096

3,876

          (kilde NKT)

同社の高圧部門における受注額は、45億ユーロと言われており従業員数約4千人の会社ですので、一人当たりの受給額は日本円で約1億6千万円と計算されます。また、2023年3月3日のエネルギー情報紙によりますと、NKT社はオランダとの間で三つの洋上ウインドファーム用のケーブル契約(契約額19億ユーロ約2,700億円)を結び、同社としては今までになかった多額の契約を結んだ発表しています。

 

この先も洋上ウインドファームの建設計画がデンマークだけではなく、各国で計画されていることから推察し、NKT社の仕事は暫く減らないと思っています。デンマークの給与所得者の殆どは残業はしない(男性の平均的労働時間数は週38時間、女性33時間と言われている)ため、事業者は納期を守るためには早めにケーブルを発注する必要があることから、NKTとしては常に仕事があり、適切な価格での取引が出来るものと見ています。

 

④       特許の取得数について

アメリカの特許庁(USPTO)によると、以下の国々における人口100万人あたりの緑の特許取得件数でデンマークは一番になっていると報じられました。

  

Kilde: Energy Supply, 3. Jan. 2023)

上図:人口百万人当たりの緑の特許取得数

国名左から デンマーク、韓国、日本、スイス、アメリカ、スウエーデン、イスラエル

 

デンマークの企業は、製品改良や製造工程の開発などに多大な投資をしています。2020年だけでもデンマークの企業が投資した研究開発費は430億クローネ(約9千億円)に上っていると報じられました。その研究開発の結果かもしれませんが、デンマークの企業の特許取得数は人口百万人あたり65件となっています。

また2021年デンマークの企業が取得したヨーロッパ特許庁の「緑の特許」数は人口百万人当たり93件となる551件と報じられていました。2021年におけるヨーロッパ特許庁からの国別に見た「緑の特許」件数(人口百万人当たり)では、デンマーク93件、スイス51件、スウエーデン37件、フィンランド33件、ドイツ27件、韓国27件、オーストリア25件, オランダ21件、日本19件、ベルギー16件と報じられています。ということは、これからも「緑の産業」(環境負担の少ない業界)への投資が進められ、国内資源をベースにおいた環境負担の少ない社会への構築に努める国が増えてくるのではないかと推察しています。そのモデルとしてデンマークの業界の活動が参考になるのではないかと思えます。

 

2023年3月15日

デンマークウアンホイにて

ケンジ ステファン スズキ