エネルギー島建設の進展、風力発電機メーカ べスタス社の業績 他(20230517)

デンマークのエネルギー島建設の進展について

2021年2月に「デンマーク政府与野党が決めたエネルギー島構想」に下記の通り、ついてお伝えしていました。 

 (抜粋)

「2019年12月6日デンマークは世界の国々に先駆け、与野党間の間で地球温暖化防止に向けた政策として気候法(Klimalov)を議会で可決しました(参照:デンマークの地球温暖化防止対策)。

そして政策として2050年までにデンマークの地球温暖化ガスの排出量をプラスマイナスゼロとする目標にしています。この目標を達成するための行動計画の一つとして、2021年2月4日デンマーク政府与野党は*北海にエネルギー島を建設することを決めました。*全政党が推進した。

デンマークが決めた人工のエネルギー島の場所はユトランド半島西海岸から80㎞程離れた北海の海上です。計画では、工事費2110億クローネ(約3.6兆円)かけ、人工島を建設し、その周辺に設置された(される)洋上ウインドファームの電力をまとめ、また増設する。

増設計画では、第一工事の発電設備は300万世帯の電力消費量の発電が見込める設備量として300万kW(一基当たりの出力15MWの風車200基)を設置する。そしてさらに増設し最終的には1000万世帯の電力消費量にあたる発電設備約1000万kW、(15MW×650基)を設置するという計画になっています。」 

 

上記のデンマーク議会が決めた、北海のエネルギー島建設計画に対し、今年(2023年)4月24日ベルギーにおいて2回目のエネルギー島建設に関する9か国が参加してのサミット会議が開催されました。サミット会議で同意したことは、デンマーク議会が計画している20230年の建設目標値65GW(1GW=百万キロワット)を約倍に増し134GWすることに同意しました。そして2050年の目標値はデンマーク議会が検討していた10GW(1000万kW)を大幅に増やし300GWに改めました。北海の洋上ウインドファームプロジェクトに参加している国々としては、デンマーク、ドイツ、オランダ、ベルギー、ルクセンブルク、フランス、イギリス、アイルランドそしてノルウェーの9か国です。これら国々の北海におけるエネルギー島建設の取り組みの背景にはロシアのウクライナ侵攻によって発生した石油、天然ガスなどのエネルギー価格の値上がりに対し、発電燃料の要らない自然エネルギー源の活用を通したエネルギーの自給と地球温暖化防止策への取り組みだとしています。サミット会議にはデンマークの首相、気候及びエネルギー大臣が出席し、EU委員会の委員長、それに約100社の業界団体が参加したと報じられていました。会議で協議したことは洋上ウインドファームの導入に対し許可の標準化を図り、速やかに工事に入れることだとしています。ここで語られているのは洋上ウインドファームからの電源を利用した水素製造プロジェクト、このプロジェクトに既に取り組んでいる国はデンマーク、オランダ、そしてイギリスと語られています。

 

風力発電機メーカーベスタス社の業績について

ベスタス社は世界で最も風車の納品が多く、2022年におけるベスタス社の市場占有率は14.0パーセント、(2021年に比べ3.7%減った)。2番目は中国のゴールドウインド(Goldwind)で13.1パーセント(2021年に比べ1.2%増えた)と報じられました。3番目はシーメンスガメサ(Siemens Gamesa)で同社は26か国に計9.3GWの風車を納品し、内3GWは洋上ウインドファームだと報じ、2022年おける洋上ウインドファームへの最大納品社となった。第四番目はGE 社(GENERL ELEKTORIK アメリカ)と報じています。

2022年世界中で設置された風力発電の設備量は21,575基計89,890メガワット(MW)で対前年比では14%減りました。ゴールドウィンドの主な納品先は中国の国内で(97%)国外はわずか3%と報じられていました。

 

世界で最も風車を納めているベスタス社は、今年(2023年)に入ってから受注が増えています。2023年第一四半期の受注量は計2,165MW(または2.165GW)でこの中にはブラジルからの受注として1.3GW、アルゼンチン162MWが含まれています。日本からの受注としは北九州所在の「ひびきウインドエナジー社*」との間で結んだ洋上用風車9.5MW、 25基計238MWがあります。響灘洋上ウインドファームの契約では風車の納品とは別にサービス・メンテ契約も結んでいます。同洋上ウインドファームの起動は2025年を見込んでいると報じられています。*ひびきウインドエナジー社は2017年4月、電源開発、九電みらいエナジー(株)などの出資によって設立された資本金69.5億円の会社です。響灘洋上ウインドファームの売電価格は20年間キロワット時当たり36円の固定価格契約を結んでいます。ということは設備利用率30パーセントとした場合の年間の売上高は238,000x0.3x8760x36=225億1670万円、となり、設備利用率35パーセントとした場合の年間の売上高は約262億6950万円と計算されます。同ウインドファームの建設費が幾らになっているか調べかねていますが、仮に1,000億円の投資額とし、運営サービス・メンテ費用を差し引いたとしても、10年前後で投資額が回収できるのではないかと推察しています。

 

ベスタス社の業績について、2023年第一四半期の売上高は約210億クローネで対2022年同期に比べ14パーセントの伸びとなり、同期における特別勘定前のEBIT (利子と税引き前利益)は2022年の24億クローネの赤字から2億9700万クローネの黒字になったと報じられています。2023年における第一四半期の受注量は3,303MW(約330万kW)で1MW当たりの売値は660万クローネで2022年の第四四半期における1MW当たりの売値は860万クローネだったのに比べ約2百クローネ安くなっていることが解ります。この数値から、競争力を通した販売量の増大に繋げようとするベスタス社の戦略が見えます。2023年第一四半期末におけるベスタス社の受注総額は約1,467億クローネそれにサービスメンテナンス契約額は2,308億クローネと報じられています。この結果ベスタス社の2023年第一四半期末における風車の販売にサービス・メンテの売上高を加えますと、3,775億クローネ(約7.55兆円)ということです。ベスタス社では2023年における売上高は1,042~1,154億クローネを見込み、特別勘定前のEBIT率はマイナス2~プラス3パーセントを見込んでいます。

表1.ベスタ社の業績(単位百万ユーロ)

会計年度

2023年第一

四半期

2022年第一

四半期

純売上高

2,829

2,485

総利益

188

22

EBIT

66

-894

税引き前利益

31

-889

当期利益

16

-765

バランス

19,914

20.087

自己資本金

3,024

3,899

従業員数(人)

28.567

29,274

Kilde: Energy Supply

Den 10. maj

2023

 

 

浜松ホトニクス(株)のデンマーク企業買い取り認可拒否について

デンマークの企業NKT社の子会社ホトニクス社(Photonics)の日本企業への売却に関しデンマーク政府は売買契約は国防に関わる問題だとし売買契約の認可を拒否しました*。問題となった売買契約はデンマークの会社NKT社(同社に関してはHP2023年3月15日項目③参照)の子会社ホトニクス(Photonics) を浜松ホトニクス(株)が100パーセント所有するホトニックス マネージメントヨーロッパ (Photonics Management Europe)が2億5百万ユーロで買収することに対しデンマーク政府は国家安全上を理由に売却の認可を拒否したということです。

 

*デンマーク議会は2021年5月21日投資審査法(原語:Investeringsscreeningslov)可決し同年の6月1日から施行しました。この法律導入の目的はデンマークの企業が所有する技術を国外企業に売却することで国家の安全が脅やかされることを避けるために導入されました。国外企業がデンマークの企業の買収に当たり、デンマーク政府は認可するか否かについてはドイツ、イギリスそしてアメリカからの見解を求めることになって居ます。本件に関し、ホトニックス マネージメントヨーロッパ社のデンマークの企業の買収は審査の結果、今年(2023年)5月2日、不認可となりました。

この買収不許可で言えることは日本の会社は信頼面においてデンマーク、ドイツ、イギリスそしてアメリカの仲間入りができていないということです。何故かその理由の一つが日本の「報道の自由」が世界の国々の報道ランキングで見ると決して高くないということです。

 

国別に見た「報道の自由」ランキングについて

デンマークの新聞*によりますと2023年5月3日パリに本部を置く「国境なき記者団」が発表した「報道の自由」ランキングで、デンマークは180か国中3位となった(2022年は2位)と報じていました。*Kristeligt Dagblad、Torsdag 4. maj 2023

 

「報道の自由」ランキングは5段階に分かれています。

1. 良い: 点数85~100点

2. 満足: 点数70~85点

3. 問題あり: 点数56~70点

4. 厳しい: 点数40~55点

5. 非常に深刻: 点数0~40点

の分類中で上記1(良い)の中に含まれている国はノルウェー、デンマーク、スウエーデン、フィンランドなどの北欧の国々です。日本については、3の問題ありの分類に入っており、2022年「報道の自由」ランキングで見ますと71番になっています(2023年は68番)。日本のランキング周辺に位置する国としてはポーランド66番、ケニア69番、ハイチ70番、キリギリス72番、セネガル73、ネパール76番となり、日本の報道の自由は先進国と呼ばれている国々の中では下位に属しています。

報道の自由は民主主義を語り守るためには大事なことだけに、報道関係者には権力を持つ者に対し常に監視役を務める役割があると思っています。デンマークの報道関係者が政治家、行政官を離職に追い込んでいる背景に報道自由が守られているためだと思っています。それが結果として国家や社会、政治への信頼を生み、国民同士守り合って暮らす仕組みを生んでいるものと思っています。

 

デンマーク、ウアンホイにて

2023年5月17日

 

ケンジ ステファン スズキ